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2008年08月22日

Last Telephone

Last Telephone

談合坂サービスエリア駐車場。
PM6:20.
スカイラインにガソリンを満タンにいれ、さらに予備タンクにも30リットル、そして、おにぎり、サンドゥイッチ、お菓子、ドリンク類、マイルドセブンなどを買い込み、携帯用トイレを二つ用意し、黒のワンボックスカーを待った。
マイルドセブンに火をつけ、BGMは『マイルスデイビス』。
外は暗く、寒く、車内にはトランペットの音色。


俺は、与えられた仕事をこなす機械と化す。
冷たく無表情で、何の誘惑にものらず、ただただ目的を達成するためだけの機械。
そして、それが『生きがい』。
生きる証。
俺は、充実していた。


めずらしく仕事前にミーナからの電話。
「どう?準備は?」
「めずらしいな、仕事前に、俺の声が聞きたくなったとか?」
「まさか?いい、この仕事がうまくいけば、あなたを幹部に入閣させるわ」
「幹部?そりゃ、うれしいね。ハワイ旅行が待ってるとか?」
「あいかわらず庶民ね、いい?、私と同じ立場になって、一緒に仕事するのよ、報酬も今までとは桁が違うわ、どう?」
「君に会えるのか?」
「そうね、そおゆうことになるわ」
「もし君がブスだったら?」
「ありえない話ね」
「だったら交渉成立だ」
「まだ、早いわ、仕事が終わってからよ」
「ミーナ安心しなよ、俺は機械だよ、目標達成のためのね。女の子を乗せ、高速を走り、広島駅で白のBMWに乗せかえる。その間、喋らない。誰とも接触しない。トイレだって携帯用で済ます。そして、君からの電話を待つ。そのために俺はここにいる。それ以上でもそれ以下でもない」
「フフフ・・・、会える日を楽しみにしてるわ」


PM7:00、黒のワンボックスカーが止まり、後ろのドアから男が眠っている『女の子』を抱きかかえて降りてくる。
俺の車に近ずき、ドアをノック、後ろのドアを開けると、女の子を寝かしたままバックシートに置き、挨拶も何もなく去ってゆく。
目も合わせず、無論会話はない。


『女の子』は6歳か7歳くらいか?
眠っている・・・。
『女子高校生』を勝手に想像していた俺は、少々驚いたが、関係ない。
俺は責任を果たすだけだ。


俺は、スカイラインを加速させる、『マイルスデイビス』のトランペットの音色と共に・・・。


俺は時折バックミラーで女の子の寝顔を確認する。
女の子は泣いたのだろうか?
涙の筋がいくつも頬を伝っていた。
その涙のわけを考えようとしたが、いつものように「意味なんてない」と、自分の思考を殺した。


2時間ほどして女の子が目を覚ました。
「・・・ここ、どこ?・・・」
俺は喋らない。
「誰?お兄ちゃん誰?」
俺は喋らない。
「どこ行くの?」
俺は喋らず、運転に集中する。
「怖いよ・・・」と、女の子はすすり泣く。
俺は、微動だにしない。


女の子のすすり泣く声と『マイルスデイビス』がリンクする。


俺は助手席にあるオレンジジュースとお菓子を女の子に渡す。
女の子は泣きながらそれを飲む。
俺はマイルドセブンに火をつける。


「・・・おうち帰りたいよ・・・」
俺はタバコを深く吸う。
「ママ・・ママ・・・」
バックミラーで女の子を見る。
きれいな子だ。
左手で涙をぬぐいながら、右手でオレンジジュースのペットボトルを握りしめる。
小さな体を震わせ、時々咳き込み、「ママ・・・ママ・・・」と、力なくつぶやく。


俺の中で、忘れていた『何か』が蘇る。


熱いものがこみ上げる・・。


俺は中津川インターで高速を降り、路肩に車を止める。


そして言う「大丈夫だよ、安心して、怖くないから、おうちに帰ろう」


俺は『機械』を卒業した。


中津川インターで上り車線に入り、東京方面に向かう。
「おうちどこなの?」
「八王子」
「駅からは帰れる?」
「うん」
「じゃ、そこまで送ってあげるよ」
「うん」
「おしっこは?」
「大丈夫だよ」
「大塚愛、聞く?」
「うん」
俺は、CDをチェンジする。
『ピーチ』を一緒に歌う。
女の子は、少しだけ笑う。
俺も笑う。


携帯が鳴る・・・非通知・・・ミーナ。
「いったいどおゆうこと!」彼女は怒っている。
しかし俺だって怒っている。
「この子はまだ子供じゃないか!これは誘拐だろ!違うか!ミーナ!」
「あなたはそんなこと考える必要はない!いい!今ならまだ許してあげる、引返して!」
「嫌だ、この子を家に送り届ける、この子はお母さんに会いたがってる」
「その子の母親はいない、いかれた父親がいるだけよ!」
「ならば、なぜ!この子を広島に連れて行く?」
「・・・・」
「答えろ!ミーナ!」
 

俺の怒鳴り声に女の子は、再び泣き出す。
「ゴメンゴメン、すぐ終わるからね」と言ってなだめる。


「いいか、ミーナ、理由を言え、言わなければ、このまま引返す」
「・・・・その子の父親からの依頼なのよ、父親にはお金も支払ってある、広島からタイへ向かう貨物船が出る、それに乗せるの・・・」
「お前、何言ってんだ?」
「その子が父親といても幸せになれない、いつ傷つけられるかわからない、タイへ行けば生活は保障されるし、世話役の人もいい人よ、わかるでしょ?」
「・・・ロリコン達の受け皿ってことか?・・・」
「そうよ」


俺は電話を切った。


大塚愛は『スマイリー』を歌っていた・・・・。


俺は夜遅く八王子駅で女の子を降ろし「あそこの交番に行って、迷子になりましたって言うんだよ」と言った。
女の子は「バイバイ」と言った。
俺も「バイバイ」と手を振った。


もちろんその後、ミーナからの電話が鳴ることは無かった。


俺は、再びボロアパートで暮らし始めた。
何とか印刷工場に入社し、昔同様、何の生きがいもなく暮らしている。


やがて1年後、全国規模の犯罪組織が摘発された。
その組織は、自分たちの手を汚すことなく、南アジアをターゲットに、人身売買や麻薬の横流しなどで、荒稼ぎをしていたらしい。


TVニュースがトップで伝える。
顔写真と氏名年齢。
その中に「立花美奈 27歳」。
俺にはわかった。
それがミーナだってことが・・・。


彼女が言っていた通り『いい女』だった。


5年後、俺は結婚し子供が産まれ、ボロアパートでささやかに暮らしていた。



携帯が鳴る・・・非通知・・・「えっ誰?」
「はい、もしもし?」
「番号変えてなかったんだ、お久しぶりね」
俺は、戸惑ったものの、電話の主が『ミーナ』であることに気づくまでには、大して時間はかからなかった。
会話は続く。
「君こそ、出てこれたのか?」
「1週間前に出所したわ」
「TVでミーナを見たよ。『いい女』ってのは本当だったんだな」
「嘘は嫌いなほうでね・・・」

ミーナは少しだけ笑った。

「ねえ、なぜ、あの時、いきなり正義の味方になっちゃったの?それが私にはわからない。あなたはどんなことでも素直に従ってくれたわ。組織の中でも評価は高かったのよ。最終的には『モラル』さえも捨ててくれたと思うの、なぜ?子供に弱いの?傷つけるんじゃなくて、送り届けるだけの仕事だったのに・・」
「・・・、俺はそん時、まさしく『機械』だったよ。別にいい人でもなかったし、あんたが言うとおり、無くすものは何も無く、夢も希望もなく、どうでもいい人生を生きていた。あの時の感情は今までうまく言えなかったけど・・・」
「けど?」
「今はわかるよ」
「どうわかるの?」
「子供がいるからかな?」
「?」
「君もいつかわかるよ、悲しんでいる小さくて弱い人間がいたら、手を貸したくなるってことをね」
「・・・わからないわ・・・」
「いつかわかるさ」
「その前に、就職先探さなくっちゃ」
「印刷工場なら紹介するぜ」
「フフフ、遠慮しとくわ」


ミーナとの最後の電話はこんな感じで終わった。


俺は冷蔵庫を開け、発泡酒を飲む。


「酔っちまえば、なんでも同じ・・・」と、つぶやく・・・



・・END・・・



PS・・・昨日のソフトボール感動しなかった?俺、マジで泣いたぞ。解説者も解説してなかったね、だって「よし!」とか「やった!」ってね。でも、気持ちわかるな~。あとは、野球の日韓戦は見る!









NEXT
23日(土)
“Display of Passion”
OPEN 19:30~ START 20:00~
adv 1000yen door 1400yen

《BAND》
○Bitch mam
○LAPIS
○SPREAD GERM


BYナリハラ

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Posted by PSPスタッフ at 05:28│Comments(3)
この記事へのコメント
お、意外とすんなり「きれい」に落ちたなー。(^^)
最後の台詞にもう一捻り欲しい気もするけど、なかなか読み応え有りましたぜ。うんうん。
Posted by ネコ先生 at 2008年08月22日 12:34
短編映画一本見終わったような気持ちです。
美奈だからミーナだなんて素直なとこあって以外と可愛い女ですな。
Posted by C  at 2008年08月22日 18:37
ネコ先生様
そうなんですよ、・もう一ひねり的な、体力と思考力がなくなってきまして・・・。

C様
ありがとうございます。まあ、何とか終えることができ、よかったす。
Posted by narihara at 2008年08月23日 16:22
 
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