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2008年11月12日

NO GET BACK ~Reprise~



あれからしばらくして、1週間ほど40度近い高熱にうなされた。
昼夜問わず、浅い眠りを繰り返し、様々な『夢』を見た。
あの山小屋・・・黄色のバイク・・・バイクに乗ってピースする義男君と孝子さん・・・焚き火が照らしたあずみの顔・・・1970年の缶詰・・・サイケデリックシンパシー・・・水しぶきが上がる大滝・・・民宿光屋のラーメン・・・浴衣姿のあずみ・・・・・・・・・・・・・・。
夢から覚めると、汗。
そんな繰り返しで、2キロ痩せた・・・。


それが過ぎると、普通の生活が待っていた。
俺は、仕事に行き、終わると、同僚とビールを飲み、部屋に帰って眠る。
合コンにも2回参加した。
アルコールも入り、男女問わずジョークを飛ばし、笑い声が絶えない。
そんな時、ふと、あずみを思い出す。
『彼女は、合コンに参加したことはあるのだろうか?』と。
『彼女は、合コンで、ちゃんと会話に参加できるのだろうか?』と。
俺は、ビール片手に、盛り上がる女の子たちを横目に、そんなことを考えていた。


クリスマス。
行きずりの女の子とセックスをした。
事が終わってから、彼女は携帯で喋っていた。
「うん・・・だからさあ・・・そうそう・・・・あの、おじん!・・・さいあく!・・・・八八ハ!・・・でも、金は持ってるみたいよ・・・・うざ・・・でもさ・・・・・やべーよ・・・ハハハ!・・・・」
俺は、眠ちまう。
朝、女の子は、俺の財布の札と一緒に・・・・消えた。
『あずみも、朝、いなくなったっけ・・・・』
俺は、ホテルの代金を、カードで支払った。


そして、21世紀は始まる。
『ノストラダムスは空振りに終わったみたいだよ・・・義男君と孝子さん・・・・』


1月3日。
俺は、車を走らせる。
埼玉県所沢市へ。
サイドシートには、『あの日記』と『カセットテープ』。
カセットテープ?
そういえば、まだ聞いていなかったな。
俺は、車の、カセットレコーダーに入れる。
内容はアルバム『LET IT BE』だった。
テープの一番最後に、彼らの声。
『録音しま~す。・・・たかこ・・・・こっちこっち・・・えっ、何?録ってるの?いや~だ・・・・』
それだけ。
ボイスオブ1970.
たった、これだけだったけど、『仲良し』だったんだなと思う。


日記の最後に書かれた住所に、『田所塗装』は存在した。
1970年のペンキ屋さんは、塗装業者に進化していた。
田所義男君の弟さんがあとを継いでいるらしい。
俺は、義男君のお母さんに会うことができた。
俺は、なるべく正確に、ゆっくりと、事の成り行きを話した。
お母さんは言った。
「知ってますよ。去年の暮に、女性の方が来ましたよ。言葉が喋れない方、あの方が、文章で細かく伝えてくれましたよ」
「・・・あずみ、という女の子ではなかったですか?」
「そう、あずみさんね」
俺は、日記帳を手渡した。
お母さんは日記を見ながら言う。
「もう・・・30年前の事だから・・・あの時・・・孝子さんの病気の事で、二人の交際を反対しました・・・健康な人と一緒になりなさいと、お父さんと一緒になって、随分と言ったんです・・・今にして思うと・・・」
お母さんは、最後に貼られている写真を見ながら泣いた。
「義男、孝子さん・・・ごめんなさいね・・・・」と言いながら泣いた。


田所塗装を出る時、お母さんが手紙をくれた。
「あずみさんからですよ・・・もし、男の人が来たら、渡してくださいと頼まれました」


俺は、車の中で手紙を見る。
こう書かれていた。
『会いに来てくれるかな?富山県氷見市・・・・障害者作業施設コスモファクトリー  あずみ』


俺は時間を見る・・・18:20.
車を発進させる。
「高速のインターどこだよ?!・・・前の車おっせーな・・・俺、急いでんだよ・・・」
入れっぱなしのカセットテープから『GETBACK』が流れる・・・。



23:30.
コスモファクトリー到着。
当たり前の話だけど、この時間やってるわけがない。
敷地の端に、社員寮がある。
俺がドアをノックすると、車椅子の女性が出てきた。
「あの~、どちら様ですか?」
「こちらに、あずみさんはいますか?あの・・・20歳で・・・でも、もっと若く見えて・・・赤のダウンジャケット着てて・・・・」
「フフフッ・・・、いますよ」女性は笑っている。
車椅子の女性は、「こっちこっち」と、手招きをして俺を誘導する。
「お待ちかねですよ・・・どうぞ、ごゆっくり」と、意味不明の言葉を残し、車椅子とともに去って行った。


俺は、ドアを開けた・・・・。


何をどう話していいか、わからなかった。


「民宿のラーメンうまかったね?」と、俺は言った。
あずみは、自分のノートに『あずみは、とん汁のほうがおいしかった』と書いて見せた。
~沈黙~
「21世紀はちゃんと来たね?」
『新しい時代の幕開けだね』
~沈黙~
なかなか進まない言葉とメモのやり取りに、俺は少しあせった。
けど、言わなきゃいけないことがある。
「ねえ、俺と、ちゃんと付き合ってもらえないかな?・・・二人の出会いは『遭難』だったけど・・・』
あずみは、ペンを走らせる。
『喋れなくても平気?』
俺は言う。
「口うるさいのは、もう、うんざりなんでね」
あずみは、笑う。


あずみは、1枚の写真を手渡す。
「・・・あっ、そういえば、撮ったね、写真」
俺は、写真を見る。
俺とあずみの後ろに山小屋・・・・・山小屋の隣に・・・・義男君と孝子さん・・・・しかもピースしている・・・・。
俺は唾を飲み込む。
「ピースしてる、心霊写真、始めて見たよ」
あずみはペンを走らせる。
『心霊写真じゃないよ、4人の記念写真だよ』


先のことなんかわからない。
21世紀がどんな時代になるのかもわからない。
ただひとつ、ただひとつ、言えることは、確かなことは、俺はあずみを必要とし、あずみは俺を必要としている、とゆう事だ。

俺は、今度こそ、彼女を抱こうと思う。



~~~~~~END~~~~~~~







  
Posted by PSPスタッフ at 12:00Comments(5)

2008年11月11日

NO GET BACK ~GET BACK~



正直に言うけど、キスまでしかしなかった。
『なぜ?』と、思うかもしれないけど、空腹と疲れと、1970年に死んでしまったカップルの事を思うと、俺は勃起しなかったんだ。
いや、空腹と疲れが原因じゃないな。
『明日は戻れるかもしれない』とゆう期待感、『戻れないかもしれない』という不安感、両方が入り混じり、『体力を温存しよう』もしくは『早く寝よう』という、無言の結論に達したのだろう。

あずみより先に目覚めた俺は「・・・することがすべてじゃないさ・・・」と、独り言をつぶやいた。

あずみも目が覚め、小さくあくびをしていた。

携帯を見る・・・AM6:30・・・外は少し明るきなってきている。

「よし、行動開始」

俺はリュックに、義男君と孝子さんの日記、それからカセットレコーダーに入っているカセットテーップを取り出して入れた。
置いていこうと思ったけど・・・・なんて言うのかな?・・・・うまく言えないけど・・・・。


あずみが俺をつっつく。
「何?あずみ」
使い捨てカメラを持っている。
「記念写真?」と俺が言うと、うれしそうに首をたてに振った。
外に出て、俺が右手を伸ばし、小屋をバックに、二人が入るように、「じゃ、いくよ、ハイポーズ、カシャ・・」。


東の小川ずたいに下る・・・・やがて、左手に乗鞍が見える・・・・間違えない、この道だ。

途中、大滝があった。
「あずみ、この滝じゃないのかな?二人が身を投げたのは・・・」
あずみは、花を摘み束にして、滝に投げ入れた。
俺たちは、手を合わせ、冥福を祈った。


歩きながら携帯を見る、しかしバッテリーが切れていた。
もう時間が、わからない。


太陽は、次第に西の空へ・・・・。


俺たちは、早足になる。


もちろん、体力も気力もギリギリだ。
この先に、もし民家がなかったら・・・・、きっとそれは・・・死を意味するかもしれない・・・・。


俺もあずみも休まない、歩きながら水を飲む。


歩く、歩く、歩く・・・・。


俺は心の中で祈る『義男君、孝子さん、こっちでいいんだよね、こっちでいいんだよね・・・』と。


あずみは、胸に右手を当てている、彼女も祈っているのだろう。


『義男君、孝子さん、昨日、日記を読みながら、あずみに言いかけてやめたことがある。それは、ひょっとして、俺とあずみを、あの山小屋に導いたのは、君たちじゃないのかい?君たちは、知ってもらいたかったんだろ?君たちの最後をさ。君たちが、最後の瞬間をどう生き、どこで死んだのかをさ。君たちの魂は『供養』してほしいんだろ?君たちは30年間待ち続けたんじゃないのか?君たちと同じ年齢で、同じ感性で、その魂に寄り添えるカップルをさ。それが、俺とあずみだったんだろ?どうだい?図星だろ?
・・・・・俺たちは生きて、君たちが見られなかった20世紀を見るよ。俺たちが君たちに会えるのは、まだまだ先だよ。その時が来たら、分かり合える友達になれる気がするよ。・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・だから、だから、街並みが・・・民家が・・・見えますように・・・・・』


真っ白の紙に、いくつもの絵具を、こぼしていくように、青・・・赤・・・・黒・・・紫・・・黄・・・朱・・・緑・・・・、70年のバンドが、大麻を吸いながら演奏している・・・・煙が照明に映える・・・・女性が一人・・・・孝子さん?・・・・「サイケデリック!」・・・・・。


PM19:30 立野時村、民宿光屋。


俺とあずみは、宿泊をお願いした。
おかみは「これはこれは、遠いところ、よう来てくんさった」と言った。


何はともあれ注文した。
みそラーメン、親子丼、とんかつ、豚汁・・・。
タバコも自販機で買い、立て続けに3本吸う。
俺たちは、満腹で動けなくなる。


1時間後、風呂。
俺が入ると、湯船に『あか』が浮かんだ。
髭をそり、ねちゃつく頭は2回洗った。


そして部屋。
俺たちは用意された浴衣に着替え、ただただ呆然とする。
俺は、何か言葉を捜したが、なかなか見つからない。
あずみも疲れきった様子で、布団の上で膝を抱えている。
俺たちは一つの布団で抱き合って眠った。
「戻れたね」と俺が言う。
あずみは小さくうなずく。
その瞬間、眠りに引き込まれる。
したがって、SEXはしていない・・・・。


朝、俺が起きると、あずみは居なかった。
枕元には、メモ帳が置かれていた。


『ありがとう。もし、一人だったら、たぶん死んじゃってたよ。でも、本当は死のうかな?と思って、あの山に行ったんだ。理由は失恋です。大好きだった彼が、喋れない私と別れて、健康な人とすぐ結婚しちゃったから。でもいざ死ぬとなると、怖くなり、山をさまよっている時にあなたに会えて(あっそう言えば名前聞いてなかったね)、すごくうれしかったよ。キスも暖かかったよ。抱きしめられて眠って、すごくすごく安心したよ。本当は、いっぱいエッチもして、そばにいたいけど、きっと、健康な人がお似合いだよ。
ミスチルの『口笛』、うまくなかったけど、桜井さんのボーカルより、グッときたよ、ホントだよ。あずみを生きて戻してくれて、ほんとうにほんとうにありがとう。忘れないよ、どこかのお兄ちゃんへ・・・あずみ。』


時間は、11時。


俺は、部屋のカーテンを開け、俺たちがさまよった山を見つめる。


山はおだやかな表情を見せている。


俺は、山を眺めながら、途方に暮れる・・・・・。







  
Posted by PSPスタッフ at 12:00Comments(5)

2008年11月10日

NO GET BACK ~diary~


俺がもし、一人だったら・・・・・。
きっと、恐怖のあまり、震えて、泣き、ひょっとしたら泣きわめき、正気でいられるかどうか?・・・。

もし、『生きる』ことが目的であるならば、俺はあずみの存在に感謝を惜しまない。
君が居てくれて・・・・本当に良かった。
必ず戻れるから・・・・必ず・・・・戻ったら、ファミレスに行っていろんなもの食べて、風呂にも入って・・・・携帯番号交換して・・・・あっ、そうか、君は携帯持ってなかったんだ・・・・・。
きっと、戻れるから・・・・きっと・・・・。


ヒントはこの手の中にある。


このノートにある。


俺はそんな気がする。


『1970年 義男と孝子の 死、までの日記』の中にね・・・・。


俺は、破らないように、ノートを開く。




『1970年 義男と孝子の 死までの日記』
~~1970年、10月1日、義男。
気分はいいよ!自分の人生が25歳で終わるのも悪くないな。僕と孝子の最後の場所をあれこれ探したけど、絶好の山小屋が見つかった!ラブ&ピース!

~~孝子
私は二十歳のまま、義男は25歳のまま、終わるなんて最高ね、だって、おじいさんになった義男も見たくないし、私の垂れ下がったおっぱいも見られたくない、レッツ!サイケデリック・・・。

~~10月2日 義男
死ぬ前に、気がかりなことが一つ、東大で自殺した、三島ゆきおは、この国をどうしたかったのだろうか?

~~孝子
義男、あっちへ行ったら聞けばいいよ。


~~10月4日 孝子
そろそろ、食べるものもなくなって来たね。ピース!ビートルズは解散したけど、私と義男は永遠だね。

~~義男
ビートルズは「GET BACK」って歌ったけど、僕たちは『NO GET BACK』だね。

~~孝子
戻る必要がないもの。



俺は、鉛筆で書かれた文章を、あずみに読み聞かせた。
あまりにも、ひどい内容であったら、読むのをやめようと思ったけど、冒頭からこんな感じっだったので、少し安心した。
「1970年、二人はここにたどり着いて、ここで最後を迎えようとしていたらしいね・・・」
俺が、そういうと、あずみはうなずき、メモにペンを走らせる。
『死のうとゆう気持ちはわかる気がするよ、でも一人じゃ怖いし、誰かに話しても止められるし、大好きな人が一緒だったら、死ねるかもしれない』
俺は、メモを見ながら、若干引いたが「・・・・例えば・・・ミスチルの桜井さんとか?」と、言うと彼女は微笑んだ。

その、微笑が空気を柔らかくした・・・・。


単なる偶然だろうか?俺は25歳であずみは二十歳だ。


~~10月10日 孝子
義男、誤解しないでほしいの、怖くなったんじゃないのよ。ただ、死ぬ前に、もし許されるならば、『ももの缶詰』が食べたい。

~~義男
ははは、いいよ孝子、俺も髭そりたいし、明日『立野時村』まで降りようか?確か、光屋っていう民宿があったからそこに泊まろう。お金があっても仕方がないし、そこに泊まって風呂に入って、最後のセックスをしようか?そして帰って来る。民宿で死んじゃうと迷惑がかかるしね、村まで1日はかかるから、明日は7時起だよ。東の小川沿いの道を行こうか?ラストピクニックだね。左手に乗鞍を眺めながらね・・・・。


「ビンゴ!!これだ!戻れるかもしれない!・・・・」
俺と、あずみは抱き合って喜んだ。


『明日は7時起だよ。東の小川沿いの道を行こうか?ラストピクニックだね。左手に乗鞍を眺めながらね・・・・。』
この文章を冷静に考える。
つまり、立野時村まで、1日歩く。
しかも、うまくいけばだ。
俺達に、食べるものはもうない。
果たして、水だけで、歩けるか?
今だって、腹が減ってしかたがないのに・・・・。


俺は、日記を読むのを中断し、あずみに言う。
「缶詰をあける缶切りを探そう」

缶切りは結局なかったけど、少々錆び、黒く汚れたナイフが引き出しの奥にあった。
「開けられるかな?」
俺は手ごろな石を探し、あずみはナイフと缶詰をきれいに洗った。
シーチキンの缶詰に、ナイフを突き刺し、石で叩く。
ナイフが刺さる。
その繰り返しで、1缶めがやっとで開いた。
俺がまず主食する。
のぞきこむあずみに「・・・たぶん、大丈夫、1970年の味がするよ・・・」と言う。

約3時間かけ、6缶全部分け合って食べた。
おいしいかおいしくないかなんて問題じゃない。
食うしかない。
食うことがすべて。
例えそれが、30年前の、ファーストフードであってもね・・・・。


『もっと、聞かせてほしいの、日記、どうなっても怖がらないから』と、あずみからのメモが渡された。
「もちろんさ、だってご馳走になっちゃったしね、ひょっとしたら、義男君と孝子さんも、誰かに聞いてもらいたくて、この日記を書いたんじゃないかなって思うし・・・・誰かに、見届けてもらいたかったんじゃないかな?自分たちの最後の瞬間をさ、生きた証を・・・・」俺は、そこまで言うと口ごもる。
あずみは、覗き込む。
「ごめんごめん、大丈夫大丈夫、じゃ、読むね」


俺は、最後に言いかけた言葉を飲み込んだ・・・・。


~~10月13日 義男
ただいま!我が家よ!『光屋』の山菜めしおいしかったな~、風呂にも入れたし。

~~孝子
夜通し抱き合ったしね。

~~義男
何回した?

~~孝子
5回!日活のピンク映画みたいっだったわ。

~~義男
生まれ変わったら、男優になるよ。


あずみは笑った。
もちろん、声は出ないけどね。


~~10月15日~~義男
まじめに書きます。僕は、幼い頃から、ペンキ職人の父をまわりから馬鹿にされて育ちました。「おい、ペンキや!服に塗料ついてるぞ」と言われたりした。中学を卒業して、父の下で働き、夜間高校に通いました。20の時貯めていたお金で、カワサキのバイクを買いました。すごくうれしくて毎日乗りました。休み時間に、黄色のペンキで塗りました。ペンキだけはたくさんありますからね。24歳のとき孝子に出会いました。彼女を後ろに乗せて、いろんな街に行きました。たぶん、僕は、このまま、バイクに彼女を乗せてどこまでもどこまでも走っていきたかったのだと思います。この場所に、来る途中の山道で、バイクとさよならしました。もし、誰か、欲しい人が居たら、差し上げます。黄色のバイクは僕のだけだと、自信があります・・・。


「俺が、見た、バイクだ・・・」


~~孝子
むづかしいことはわからないけど、義男に会えてよかった。楽しかった。バイクの後ろ好きだった。ポールマッカートニーよりアランドロンよりジュリーやショーケンより、義男がいいよ。ホントだよ。ごめんね、私の病気のせいで・・・、あっ、ルール違反だね、謝るのはなしだったね。ねえ、義男、20世紀はいったいどうなってるのかな?宇宙へは気軽に行けるのかな?ノストラダムスが言うように、1999年で滅亡しちゃうのかな?あっちへ行ってから観察しようね。良かった、このままの年齢で止まるから。30年後、私は50歳で義男は55歳だよ。やっぱり20世紀は、みんなにまかせたほうがいいね。


「たぶん・・・孝子さんは・・・不治の病だったのかな?・・・」
あずみはうなずく。


これも偶然なのか?あずみも声が出せないという病を持っている・・・。


~~10月20日 義男
紅葉が綺麗になったね。場所は、立野時村に向かう途中にあった、滝にしようか。すごく高かったし、下は岩場だし、流れは速いし、うまくいけば、日本海まででられるかもね

~~孝子
うん、富山の海で、蜃気楼になろう。




~10月21日 田所義男 久保孝子 埼玉県所沢市・・・・・。
いままで、どうもありがとうございました。勝手にこの場所をお借りして、申し訳なく思います。
1970年10月21日、今日は良く晴れています。気持ちの良い青空です。この平和と青空が何年も何年も続くことを願っています。
みなさん、さようなら。
そして、お父さんお母さん、本当にごめんなさいね。


文章は終わり、1枚の写真が貼られている。
カラー写真で、黄色のバイクにまたがってピースする義男君と孝子さんが写っている。
彼らは、若く、屈託のない笑顔を浮かべている。
義男君は『GET』と書かれたトレーナーを着ていた。
孝子さんのシャツには、『ラブ&ピース』と書かれていた。


沈黙・・・・・。



あずみが泣いたからってわけじゃないけど、俺は彼女にキスをした。


何かを言おうとしたけど、言葉が見つからなかった。


俺はあずみの、柔らかい下唇をそっと吸った・・・・。








  
Posted by PSPスタッフ at 12:00Comments(4)

2008年11月09日

NO GET BACK ~NEXT DAY~


朝日・・・・。

あずみの体温を胸元に感じ、そして背中には山の冷気を感じながら、俺は目が覚める。
彼女の髪の香りが、微かに漂う。


携帯で時間確認・・・7:30.


焚き火は消え、青い煙が少しだけ上がっている。


気分は悪くない。
遭難はしたものの、俺は女の子を抱きしめている。
『もう少しだけ、このままでいよう』と思う。
俺はあずみを抱きしめたまま、木々からこぼれる太陽の光を感じていた。


8:00。
あずみは目覚める。
しかたがないんで、俺も、たった今起きたふりをする。
「・・・おはよう・・・・、眠れた?・・・」
彼女は、目を擦りながら、首をたてに振る。


休み時間は終わりのようだ。
気持ちを切り替えなくてはいけない。
俺は小学校の先生の言葉を思い出していた。
「はい!、休み時間は終わりました、これから授業時間です、気持ちを切り替えましょう!わかったかな?」
「はい!」
はい・・・・その通りだよ・・・・・先生・・・・・。


俺は自分なりの考えをまとめ、あずみに問いかける。
この状況下で、俺とあずみは、チームでなきゃいけない。
お互いの同意のもと、行動をしなければならない。
しかし、責任は・・・、もし責任があるとしたら・・・・、それは俺にある。
なぜなら、年上であり、男であるから・・・・。

「あずみちゃん、俺、思うんだけど、昨日あれだけこの付近の道を探したけど、結局この場所に戻ってきただろ?食料のことも考えると、進む方向を一つに絞ったほうがいいと思う。まあ、賭けみたいなものかもしれないけど、今から歩けば、20キロは歩けるかもしれない、それに、あずみちゃんの家族が捜索願を出して、ヘリコプターもくるかもしれない、希望はある、この意見について、どう思う?」
あずみはペンを走らせる。
『それがいいと思うよ、でも、家族はいないから、ヘリコプターは来ないよ』
それを読んで俺は言う。
「ヘリコプターは来ない・・・・したがって、救助された後の記者会見もない・・・」
あずみは、笑った。
彼女の笑顔に、救われる俺がいる。
「じゃ、あずみちゃんは、どっちの方向がいいと思う?」
あずみは、太陽のほうを指差した。
「東ね、OK,じゃ、宝探しに出かけよう・・・・」


俺達は、おにぎりとサンドウィッチを半分だけ食べ、お茶とミネラルウォーターを一杯だけ飲んだ。
俺はタバコを探したが、昨日で切らしていたことに気がつき、地面に落ちている『シケモク』を吸った。


東には草原が広がっていた。
それは決して、平坦な地形ではなく、凸凹を繰り返し、林を交えながらの草原地帯だ。

12:00休憩。
最後のおにぎりとサンドウィッチを食べ、残り少なくなった、お茶とミネラルウォーターを飲んだ。
肩で息をしながら、不安そうな目をするあずみに、「大丈夫だよ・・・」と声をかける。
しかし、その言葉とは裏はらに、『今日も戻れなかったら・・・』とゆう想いがよぎる。
『今日戻れなかったら、明日が限界かもしれない・・・』
俺はその想いを払拭すべく、『口笛』を歌う。
「♪頼りなく、二つ並んだ、ふぞろいの影が、足早に・・・・」と。
あずみは、ニコッとして、拍手もくれた。
俺は、あずみの頭を撫でた。


しばらく行くと急な斜面。
それを避け、回り道して、谷へ。
小川ずたいに、まっすぐまっすぐ・・・・。
大きくカーブをし、小高い丘を登る。
登りきったところで「はあー、はあー、あずみちゃん少し休もう」と言い、寝っころがる。
あずみが俺をつっつく。
「えっ・・・、何?」
あずみが指をさす。


50メートル先には、小屋があった。
・・・・・建物があった・・・・・・。


木造のその建物は、『山小屋』と呼べるレベルではなく、かろうじて木柱に荒削りな板材が打ち付けてあり、屋根は大きな葉がいくつも茂った枝が折り重なっているだけ、床はなく草が生えている。
蜘蛛の巣だらけの建物内は、机?らしきもの、収納棚?らしきもの、ドラム缶式のフロ?らしきもの・・・が散乱していて、ここ2~3年の間に、人間が生活した形跡はない。
しかし、もっと前には、必ず誰かがここに居た。

誰かが・・・・・。


俺はあずみに言った。
「ひょっとしたら、どこかの村の近くかもしれないよ。今日はもう4時だから、ここに泊まろう。昨日みたいに小枝と乾燥した葉を拾ってきてくれる?俺は、まわりを見てくるから」
あずみは、うんうんとうなずいた。


小屋のすぐ隣には、湧き水があった・・・・水の確保!

俺は一人20分ほど歩いてみたけど、同じような風景が続くだけだった。


火は点いた。
簡単にってわけでもないけど、昨日の要領で点ける事ができた。
ささやかな炎は、暗くなりかけた小屋の中で、部屋と俺とあずみを照らした。


俺とあずみは、小屋の中を物色した。
水を含んでぐっしょりした、いくつもの布?(布団だろうか?)をはぐっていくと、泥とほこりにまぎれた『シーチキン缶詰』『ももの缶詰』『シャケの缶詰』が6缶、ナタ?片方の運動靴、トレーナーらしき?衣類(胸部分にGETと書かれている)、ナショナルのカセットテープレコーダー(中にカセットテープも入っている)、あとは・・・・、黒く汚れた、数々の物体・・・・なんだろうか?


缶詰はあっても、缶切りが見当たらない・・・。


しかたなく、その夜は、ポテトチップスとストロベリーチョコを仲良く分け合った。

もちろん、腹は減ったけど、その分水をたくさん飲んだ。


あずみは、俺をつっつく。
「どうした?」
あずみは、汚れた大学ノートを差し出し、机を指差した。
汚れを慎重に払うと、文字が見える。
たぶんではあるけどこう書いてある。

『1970年 義男と孝子の 死までの日記』


俺とあずみは、目と目をあわせ、唾を飲み込んだ。


あずみは、震えだしたので、俺は迷わず抱きしめた。

「あずみ!心配ないよ、俺が一緒だから、怖くないから・・・・あずみ!・・・・」

俺はいつしか、彼女の事を、呼び捨てにしていた。

















  
Posted by PSPスタッフ at 12:00Comments(2)

2008年11月08日

NO GET BACK ~夜~



秋の夕暮れは、いつだって悲しい。
しかし、これほどの、絶望感に包まれた夕暮れは初めてだ。
唯一の救いと言えば、一人ではないこと。
彼女と一緒に、山道にまぎれこんだのは、暗がりで灯す、1本のマッチのようだった。

俺と、言葉が喋れない女の子は、太陽が落ちるまで、必死にあっちこっち歩き回った。
東の草原も、西の小川も、南の岸壁も、北の広葉樹林も、その先、道らしき道は途絶え、俺たちは結局、最初に居た、頂上付近の公園らしき場所にたどり着く。

太陽は沈み、段々と薄暗くなり、俺は途方に暮れかけた。
「・・・まずいな、どうしようか・・・・」と俺は、独り言をつぶやく。
彼女は、無言のまま、水筒のお茶を差し出す。
「・・・ありがとう・・・」と言って、冷たくなったお茶を飲み干す。

「今日は、もう 動かない方がいい」
俺がそう言うと、彼女はうなずいた。

俺たちは、夕暮れの微かな明るさの中、お互いのリュックサックを確認した。
彼女は、水筒のお茶が半分、使い捨てカメラ、ポテトチップス、サンドウイッチ、ティッシュケース、化粧品・・・。
俺は、タオル、ハンカチ、ポケットティッシュ2つ、MD3枚ほど,MDプレーヤー、おにぎり2個、ストロベリーチョコ、ミネラルウオーター1本、マイルドセブン、100円ライター・・・。

100円ライター?

俺は、タバコをやめなかったことに一瞬感謝した。

「ねえ、火をおこすから、何か燃えそうなものを探そう、時間がないから早くね」
彼女はうなずいた。


集めた小枝と乾燥した葉を重ね、下に入れたティッシュとハンカチにライターで火を点ける。
俺は、そ~と、息を吹きかけ、祈るような気持ちで「点け!点け!」と、叫んだ。
彼女は、両手を胸元で重ね合わせ、泣きそうな顔になる。

「点け!点け!点けよ!バカヤロー!」

そして火は点いた。
そのささやかな炎は、彼女の顔を照らした。
彼女は笑った。
炎に照らし出された、彼女の顔は、少女のようだった。

不謹慎かもしれないけど、一瞬、遠い日のキャンプファイヤーを思い出した。


そして夜。

小さな炎は、やがて太い枝に燃え移り、『焚き火』となった。

俺は携帯電話で時間を確認、20:00をまわっていた。
携帯電話は、もちろん圏外。
俺も彼女も、時計を持っていなかったので、唯一時間を知る方法は携帯電話だ。

俺は彼女に問いかける。
「携帯持ってないの?」
彼女は首を横に振る。
俺は、メモ帳とペンを渡す。
『喋れないから、必要ないんです』と、書いてある。
「なるほど、でも、ほら、メールとかさ?」
彼女は、メモを書く。
『お店に行って、店員さんとのやり取りを考えると、買うのが恥ずかしいから』
「・・・なるほど、太った奴がスリムジーンズ買うみたいな感じかな?」
そう言うと、彼女は笑った。

「明日のために、少しだけ食べようか?」と、俺は言った。
俺たちは、おにぎりとサンドウイッチを半分だけ食べることにした。
水やお茶も、少しだけ飲んだ。
俺は、最後のタバコに火を点ける。


『遭難』したことを除けば、月も星も、プラネタリュウムのようだった。

時間はゆっくりと流れ、静寂と、暗がりと、炎と・・・・、あとは何もない。
交通渋滞も、結婚式場も、ノルマも、バーも、バス停も、ご近所も、パソコンも、壁に書かれた落書きも・・・・。
何もない・・・。

俺は彼女に問いかける。
問いかけるテーマはなんでもいい。
時間はあるし、問いかける相手もいる。
彼女も、コミュニケーションをとりたがっている。


「ねえ、音楽聴く?誰が好き?」
彼女はペンを走らせる。
『ミスターチルドレン』。
チルドレンの最後にハートマークも添えられていた。
「あっ、ほんと?、ミスチルのCD『口笛』買ったよ」
『本当ですか?良かったら、歌ってください』
「えっ、歌?俺うまくないからな・・・」
と、言ったものの、暗がりの淋しさを紛らわすために、俺は歌いだした。
「♪頼りなく、二つ並んだ、ふぞろいの影が・・・・・」と。
俺の、へたくそな歌に、彼女は少しだけ体を揺らした。


他にも、いろいろと、話したかったけど、メモ帳が残り少なくなっていた。
『残り少ないから、残しておいた方がいいと思いますよ』
そのメモを見ながら、「うん、そうしようか」と言った。


あとは、俺の問いかけに、彼女は首をたてに振るか、横に振るかだけのコミュニケーションになった。

西暦2000年は、無事にくると思う?
彼女は、首をたてに振る。
俺も、そう思うよ。じゃあ、山にはよく行くの?
横に振る。
そうなんだ。年は18歳くらい?
横に振る。人差し指を上に向ける。
19歳?
横に振る。人差し指を上。
じゃあ、20歳?
首をたてに振る。
もっと、下に見える。
彼女は笑う。
名前は?
彼女は、困っている。
あっそうかそうか、ごめんごめん。じゃ、・・・あきこ?
横に振る。
ようこ?
横に振る。彼女は笑っている。
当たるわけないよな、名前。

彼女は、小枝を、草の茂った地面に突き刺し、文字を描いた。
「えっ、何?何って書いた?」
彼女は、もう一度、ゆっくりと、『あ・ず・み』と書いた。
「あずみ?あずみちゃん?」
彼女は、微笑みながら、右手でOKサインをつくった。


24:00、彼女は、いや、あずみちゃんは眠った。

俺は、火を絶やさぬように、気をつけていたが、2:00に眠ってしまった。


3:00、あずみちゃんが俺をつっついた。
「何?どうした?・・・」
と、問いかけた瞬間、俺の胸の中に顔をうずめてきた。
俺の背中に、人差し指で『さむいよ』と、書いたような気がした。
「大丈夫だから・・・・、明日はきっと、戻れるから・・・・」

俺は、あずみちゃんを抱き寄せ、髪に唇をつけて眠った。


「・・・・きっと・・・・戻れるから・・・」









  
Posted by PSPスタッフ at 12:00Comments(2)