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2008年11月12日

NO GET BACK ~Reprise~

NO GET BACK ~Reprise~

あれからしばらくして、1週間ほど40度近い高熱にうなされた。
昼夜問わず、浅い眠りを繰り返し、様々な『夢』を見た。
あの山小屋・・・黄色のバイク・・・バイクに乗ってピースする義男君と孝子さん・・・焚き火が照らしたあずみの顔・・・1970年の缶詰・・・サイケデリックシンパシー・・・水しぶきが上がる大滝・・・民宿光屋のラーメン・・・浴衣姿のあずみ・・・・・・・・・・・・・・。
夢から覚めると、汗。
そんな繰り返しで、2キロ痩せた・・・。


それが過ぎると、普通の生活が待っていた。
俺は、仕事に行き、終わると、同僚とビールを飲み、部屋に帰って眠る。
合コンにも2回参加した。
アルコールも入り、男女問わずジョークを飛ばし、笑い声が絶えない。
そんな時、ふと、あずみを思い出す。
『彼女は、合コンに参加したことはあるのだろうか?』と。
『彼女は、合コンで、ちゃんと会話に参加できるのだろうか?』と。
俺は、ビール片手に、盛り上がる女の子たちを横目に、そんなことを考えていた。


クリスマス。
行きずりの女の子とセックスをした。
事が終わってから、彼女は携帯で喋っていた。
「うん・・・だからさあ・・・そうそう・・・・あの、おじん!・・・さいあく!・・・・八八ハ!・・・でも、金は持ってるみたいよ・・・・うざ・・・でもさ・・・・・やべーよ・・・ハハハ!・・・・」
俺は、眠ちまう。
朝、女の子は、俺の財布の札と一緒に・・・・消えた。
『あずみも、朝、いなくなったっけ・・・・』
俺は、ホテルの代金を、カードで支払った。


そして、21世紀は始まる。
『ノストラダムスは空振りに終わったみたいだよ・・・義男君と孝子さん・・・・』


1月3日。
俺は、車を走らせる。
埼玉県所沢市へ。
サイドシートには、『あの日記』と『カセットテープ』。
カセットテープ?
そういえば、まだ聞いていなかったな。
俺は、車の、カセットレコーダーに入れる。
内容はアルバム『LET IT BE』だった。
テープの一番最後に、彼らの声。
『録音しま~す。・・・たかこ・・・・こっちこっち・・・えっ、何?録ってるの?いや~だ・・・・』
それだけ。
ボイスオブ1970.
たった、これだけだったけど、『仲良し』だったんだなと思う。


日記の最後に書かれた住所に、『田所塗装』は存在した。
1970年のペンキ屋さんは、塗装業者に進化していた。
田所義男君の弟さんがあとを継いでいるらしい。
俺は、義男君のお母さんに会うことができた。
俺は、なるべく正確に、ゆっくりと、事の成り行きを話した。
お母さんは言った。
「知ってますよ。去年の暮に、女性の方が来ましたよ。言葉が喋れない方、あの方が、文章で細かく伝えてくれましたよ」
「・・・あずみ、という女の子ではなかったですか?」
「そう、あずみさんね」
俺は、日記帳を手渡した。
お母さんは日記を見ながら言う。
「もう・・・30年前の事だから・・・あの時・・・孝子さんの病気の事で、二人の交際を反対しました・・・健康な人と一緒になりなさいと、お父さんと一緒になって、随分と言ったんです・・・今にして思うと・・・」
お母さんは、最後に貼られている写真を見ながら泣いた。
「義男、孝子さん・・・ごめんなさいね・・・・」と言いながら泣いた。


田所塗装を出る時、お母さんが手紙をくれた。
「あずみさんからですよ・・・もし、男の人が来たら、渡してくださいと頼まれました」


俺は、車の中で手紙を見る。
こう書かれていた。
『会いに来てくれるかな?富山県氷見市・・・・障害者作業施設コスモファクトリー  あずみ』


俺は時間を見る・・・18:20.
車を発進させる。
「高速のインターどこだよ?!・・・前の車おっせーな・・・俺、急いでんだよ・・・」
入れっぱなしのカセットテープから『GETBACK』が流れる・・・。



23:30.
コスモファクトリー到着。
当たり前の話だけど、この時間やってるわけがない。
敷地の端に、社員寮がある。
俺がドアをノックすると、車椅子の女性が出てきた。
「あの~、どちら様ですか?」
「こちらに、あずみさんはいますか?あの・・・20歳で・・・でも、もっと若く見えて・・・赤のダウンジャケット着てて・・・・」
「フフフッ・・・、いますよ」女性は笑っている。
車椅子の女性は、「こっちこっち」と、手招きをして俺を誘導する。
「お待ちかねですよ・・・どうぞ、ごゆっくり」と、意味不明の言葉を残し、車椅子とともに去って行った。


俺は、ドアを開けた・・・・。


何をどう話していいか、わからなかった。


「民宿のラーメンうまかったね?」と、俺は言った。
あずみは、自分のノートに『あずみは、とん汁のほうがおいしかった』と書いて見せた。
~沈黙~
「21世紀はちゃんと来たね?」
『新しい時代の幕開けだね』
~沈黙~
なかなか進まない言葉とメモのやり取りに、俺は少しあせった。
けど、言わなきゃいけないことがある。
「ねえ、俺と、ちゃんと付き合ってもらえないかな?・・・二人の出会いは『遭難』だったけど・・・』
あずみは、ペンを走らせる。
『喋れなくても平気?』
俺は言う。
「口うるさいのは、もう、うんざりなんでね」
あずみは、笑う。


あずみは、1枚の写真を手渡す。
「・・・あっ、そういえば、撮ったね、写真」
俺は、写真を見る。
俺とあずみの後ろに山小屋・・・・・山小屋の隣に・・・・義男君と孝子さん・・・・しかもピースしている・・・・。
俺は唾を飲み込む。
「ピースしてる、心霊写真、始めて見たよ」
あずみはペンを走らせる。
『心霊写真じゃないよ、4人の記念写真だよ』


先のことなんかわからない。
21世紀がどんな時代になるのかもわからない。
ただひとつ、ただひとつ、言えることは、確かなことは、俺はあずみを必要とし、あずみは俺を必要としている、とゆう事だ。

俺は、今度こそ、彼女を抱こうと思う。



~~~~~~END~~~~~~~







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Posted by PSPスタッフ at 12:00│Comments(5)
この記事へのコメント
なるほどねぇ、お互いが、お互いを必要としていた…この話しが終わるまで「あずみ」ちゃんを抱くことも無く彼女を大切にし再会して初めてふたりが結ばれる…我慢してて良かったですね。しかし、合コンの時に行きずりの女と寝てしまったのは、不味かったかもね?金も奪われてしまったんでしょ?まぁ、あずみちゃんと再会できたから良かったとしましょう。そぅ、このブログをアップする時間は、いつも昼の12時なんですね。たぶん時報を聞きながらマウスをクリックするナリハラさんを想像してます。次回の妄想話し楽しみにしてます。
Posted by 古川やんちゃ at 2008年11月12日 12:20
あ~すっきりしたぁ~^^
さぁて、仕事でもするか。
あっ、社長もちゃんと仕事しねぇ~よ~(^皿^)
Posted by ♪さとこっこ♪ at 2008年11月12日 13:40
古川やんちゃさま
昼12:00UPはですね、時間予約ができるんですよ。勝手な妄想に付き合ってもらって、感謝します!

さとこさま
仕事しましょう!たまには・・・いやいや、ショルダーがんばってね!・・・あっそうか、俺も出るんだ・・・。
Posted by narihara at 2008年11月13日 09:01
あーよかった。スッキリした。

あずみは彼を試したのかな?
いや、違う。懸けたんだ。信じた、と言うには儚すぎると思う。
きっと迎えに来てくれる。でももし来てくれなかったら自分は・・・・・


それにしても・・・・
このスッキリ感はなんなんだー。爽やかさはなんなんだー。
前回であんなにモヤモヤしまくったのに(笑)
Posted by ギブソンギブソン at 2008年11月14日 00:54
ギブソンさま
スッキリしていただいて、ありがとうございます。基本的に、俺も、映画とかでも、「スッキリ」派です。だって、もやもや終わりだとねえ、何かと支障もきたすしね・・・・。
Posted by narihara at 2008年11月14日 14:56
 
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