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2008年11月07日

NO GET BACK


1999年秋、富山県の『名もなき山』に登ったことがある。
たぶん、名前はあるのだろうけれど、そんなことはどうでもよかった。
どこでも、よかった。
「あっ、ここでいいや・・・」的な発想。
別に登山家でもなく、山に関心があるわけでもなく、もし言葉を上げるとしたら『現実逃避』・・・これだ。

ちょうど手ごろな山道もあったし、対して高くもないし、『日帰りコース』としては、絶好の自然遺産だと思った。

MDプレーヤーで「ジャクソンブラウン」を聴きながら、ゆっくりと、ゆっくりと、ただただゆっくりと・・・歩く。

途中、大木が横たわっていた。
台風の影響だろうか?
さらに進むと、小さな湖。
道はどんどん細くなり、道という認識すらつきにくい。
『蛇』『熊』の存在が、微かに脳裏をよぎったから、MDのボリュームを上げた。
ジャクソンブラウンは『孤独なランナー』を歌っていた。
山の斜面に『錆付いたカワサキの黄色いバイク』が倒れていた。
俺は、そのバイクが、なぜこの場所にあるのかを想像してみたが、明確な回答は得られなかった。


木々をかきわけると、広いスペースへ。
「公園?」
いや、公園と呼ぶには、草木がぼうぼうに生い茂っている。
しかしベンチが一つだけある。
ベンチの背もたれには「フジカラー」の宣伝文字。

俺は腰掛、コンビニで買ってきた、ミネラルウオーターを飲み、おにぎりを食べた。

俺が来た道と反対の方向から『女の子』が歩み寄る。
突然現れた、とゆう感じで・・。
赤のダウンジャケットに赤のCAPをかぶり、俺に近づく。
俺は「こんにちは」と、声をかける。
女の子は頭を下げる。
女の子は何かを言いたそうだった。
「何か?」と俺はたずねたが、「・・・・・・・・・・・・・・」。

女の子は、言葉が喋れなかった。

俺は、リュックサックから、メモ帳とペンを、彼女に渡した。
「これに、書いてみて」
そう、問いかけると、彼女はうなずき、ペンをはしらせた。
どうやら、耳は聞こえるようだ。
『道に迷ってしまって、山を下りられないんです』と、書いてあった。
「それなら、俺と一緒に帰ろう。今来たところだから、俺が来た道を一緒に下りようか?あっちの道だけど」
彼女は、首を振った。
そして再び、ペンをはしらせる。
『その道も行ったけど、下りられませんでした』
俺は、笑いながら答える。
「大丈夫だよ、今さっき、歩いた道だからさ、心配しないで」

俺は、おにぎりを差し出し「食べる」と聞いたが、女の子は首を横に振った。

静寂の中で、小鳥のさえずりが聞こえた。

「よし行こうか」
俺は、「こっちこっち」と手招きをし、不安そうな女の子を誘導した。

MDプレーヤーを聴こうとしてやめた。
彼女に失礼な気がしたためだ。


「もう、少しで、錆付いたバイクが見えてくるよ・・・」
女の子はうなずく。

けっきょく、バイクは見つからなかった・・・・。


「この道を下れば、湖があるはずだからね・・・」
女の子はうなずく。


湖はなかった。


大木が横たわっていることもなく、下り坂は、いつしか上り坂になっていた。


女の子は俺の背中をつっつく。
メモを渡すと『私も、さっき、この道を通りました。でも、戻れなかった』と、書き込んだ。


「戻れない・・・・って」


俺の背中に、一瞬、冷たいものが流れた。

  
Posted by PSPスタッフ at 12:08Comments(3)