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2010年04月15日
LADYs&GENTLEMAN

やはり教会の鐘は鳴っている。
しかし今回は、メインじゃない。
花嫁の父母として、この場所にいる。
参列者席の一番前に座り、娘が嫁ぐ姿をじっと見る。
彼は思った「よくここまで大きくなったな・・」と。
彼女は思った「幸せになってね・・・」と。
ずいぶん前に聴いたウエディングベルの音色は、今、娘のために奏でられている。
彼と彼女は、今までの長い道のりを思う。
誕生の喜び。
お金での苦労、苦難、苦悩、葛藤。
教育方針をめぐっての対立。
そして和解。
対立・・・和解・・・対立・・・和解・・・・。
喧嘩・・・仲直り・・・喧嘩・・・仲直り・・・・。
そんなことを考えていた彼は「クスッ」と笑ってしまう。
「どうしたの?」と彼女は聞く。
「いや・・・ちょっとね・・・」
そう言って、彼は彼女の肩をポンと叩く。
二人は、MAN&WOMANから LADYs&GENTLEMANと、呼ばれる世代になっていた。
時代は繰り返す。
本人から、子供、孫に、引き継がれながら。
時代の流行、世情、環境、に、左右されながら。
同じようなことが繰り返される。
ただ、問題は、本人自身は、『老いる』ということだ。
そうさ・・・残念ながら・・・『老いる』。
それから、先は、たいした事件は起こらなかった。
ご近所での交通事故。
飼い猫の死。
右足のねんざ。
スーパーの懸賞で2等が当たる。
・・・・・・・・・・・と、まあ、そんなところだ。
今では、彼女も働いている。
出会った頃のようにね。
お金に余裕が出てきた。
しかし、情熱は失せてくる。
出会った頃の情熱、貧しいながら、必死に子供を育てた情熱。
今はただ、ゆっくりと時間が過ぎる。
秋の夕暮れのような静寂が、段々と深くなる・・・。
彼は釣りをし、彼女はカルチャースクールで絵を習う。
やっぱり、なんかしなくちゃね。
彼と彼女は、KISSをしない。
もう、何年?してないのだろうか?・・・・。
「こんどの日曜日、海でも行かないか?」
突然の提案に彼女は戸惑う。
「あなた、釣りだったら、私がいると足手まといでしょ?」
と、彼女は答える。
「いや、釣りじゃなくて・・・」
「では温泉ですか?だったら連れて行ってもらおうかしら?」
「いや、温泉ってわけでもなくて・・・」
「・・・・ん?・・・」
彼は、恥ずかしさを振り払い、振り絞るように言う。
「つまり・・・お前と・・・二人で・・・海に・・・ほら、昔のように・・・出会った頃の様に・・・俺と・・・デートしないか?・・・」
彼女は、あっけにとられる。
「・・・・う・・・ん・・・」
と、答えたものの、実際はどう答えていいのかわからなかった。
もう、二人の間には『デート』というキーワードは存在していなかったからだ。
しかし・・・・。
しかし、彼の『デートの誘い』は、あとあと、彼女のハートを暖めた。
ジワジワと。
ボクシング風に言うならば、ボディブロー。
後半になって・・・・効いてくる・・・・。
海は何もなかった。
海は海であり、海以上でも海以下でもない。
そんな海岸に二人は腰を下ろし、あまり話すこともない。
若いカップルが『語るべき夢』は、そこには存在しない。
若いカップルが体感する『SEXに導くための会話』も、そこには存在しない。
海風が、二人の白髪をなびかせる。
海風が、二人の加齢臭を周辺に運ぶ。
ドキドキはしない。
いたっておだやかだ。
悪くない。
「うん・・・悪くない」と、彼は言う。
「そうね・・・気持ちいいわね」と、彼女は言う。
彼女は、包みを開け、サンドウイッチを彼に差し出す。
「昔も、こおゆう事、あったな・・」
「・・・なつかしいわね・・・」
彼と彼女は、昔にタイムスリップする。
それは一瞬だけど、二人の想いが同化した瞬間なのだろう。
キャンプファイヤーのような、燃え上がる炎ではなく、最後のマッチを擦るような、ささやかな炎。
二人は、そのささやかな炎を、消さないように、消えないように・・・。
もう燃え上がることない炎でも、大切に、大切に・・・・。
彼は彼女の肩を抱き、KISSをした。
結果的には、このKISSが最後のKISSとなる。
10年後、彼女は死んだ。
彼は、彼女の遺体の唇を触った・・・。
彼は、今でもたまに、一人海に行く。
コンビニで買った、サンドウイッチをかじる。
たまに思い出し笑いをする。
「クスッ」と。
たまに思い出し泣きもする。
「ポロッ」と。
その瞬間には、いつも彼女の思い出がリンクしている。
LADYs&GENTLEMAN・・・お疲れ様でした。
MAN&WOMAN・・・踏ん張り時だぜ。
BOYS&GIRLS・・・・恋をしなよ。
BYナリハラ
Posted by PSPスタッフ at
11:22
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