QRコード
QRCODE
アクセスカウンタ
読者登録
メールアドレスを入力して登録する事で、このブログの新着エントリーをメールでお届けいたします。解除は→こちら
現在の読者数 4人
プロフィール
PSPスタッフ
PSPスタッフ
オーナーへメッセージ
Sponsored Links

2011年09月01日

最後の20セント

最後の20セント


「あといくらある?」と、相棒は俺に問いかける。
「20セントだ」と、俺は答える。
最後の20セントを見つめながら、俺たちは沈黙を守った。



空はどこまでも曇っている。
そして、絶望うごめく街。
一部の人々だけが野望を抱き、あぶく銭を稼ぎ、弱いものを平気で踏みつける。
一部の人々だけが、絶えず太り続け、多くの人達が、やせ細ってゆく。
そんな街に俺たちはたどり着いた。。
時には肉体労働の雇用窓口の列に並び、時には食糧配給の列に並ぶ。
シャワーもトイレもない屋根裏部屋で眠り、朝の寒さに震える。
暖かいスープが頭をよぎる。
しかし現実は甘くはない。
暖かいスープはおろか、眠る毛布も、枕もない。
あるのは、乾ききったパンのかけらと、床に敷かれたアメリカの国旗だけだ。
そのほかの物は、何もない・・・・。
いや、ある・・・。
ひとつだけある。
いや、正確に言うならば、あった・・・。
正確に言うならば、この町についた頃には、『夢』ってのがあった。
アメリカンドリーム&ゴールドラッシュ!!
なんて、景気のいい夢ではない。
シンプルな夢だ。
この町で、部屋を借り、仕事をし、生活をする・・・欲を言えば・・・恋だってする・・・そんな、シンプルな夢だ。
この街に着く、列車の隅で、相棒と俺は、夢を見ていた。
「恋人はブロンドがいいな・・・」と、相棒は言った。
「朝食は、ベーコンエッグにトーストなんてどうだい?」と、俺は返した。
「トーストはフレンチに限るね・・」
「女は、金髪に限るね・・」
そして、俺達はこの街に足を踏み入れる。
ハンチングをかぶり直し、サスペンダーの位置を直し・・・・。
でも・・・・。
列車の中で培った希望は不景気風にあおられ、みるみる風化の一途をたどる。
ストリートのあちこちじゃ、老人、子供、病人 が、殴られ蹴られ、金めのものをはがされていく。
素っ裸で気絶した子供の、腹を切り、内臓まで持っていく、イカれたジャンキーまでいる。
『狂っている』と、最初はそう思ったさ。
最初は・・・。
しかし、そんな小学校のお勉強的道徳なんて、この街じゃ通用しない。
俺と相棒は、狼狽え、嘆き、震えた・・・。
俺達は、現実を受け入れる。
それ以外に、進むべき道はない。
この街のルールでに従って、必死に生きるか?みじめに死ぬか?だ。
内臓まで持って行かれて、死体をカラスが食うような、お決まりの死に方・・・。
誰も泣いちゃくれないし、誰も気づいてもくれない。
それが、嫌なら、必死に生きるか?
さじを投げるならば、みじめに死ね・・・。
そして、生きる方向に決意し、汚物にまみれた空き缶を蹴とばした。
「生きようぜ・・・」




雇用窓口では決まってこう言われた。
「よそ者には用はねえよ・・」
「臓器だったら歓迎するぜ・・」
「体売れ、ゲイ集団に話しつけてやろうか?・・」
「さっさと、帰れ・・・」
俺達は、憲法に従って抗議する。
「まじめに働きたいだけだ」と。
その瞬間、ナイフが壁に突き刺さる。
「ボーヤ達、何もわかっちゃいないな・・・」


教会の食糧配給に並ぶ。
2時間待たされて、パンをひとかけらもらう。
「これだけなのか?」
そう言うと、神父さんは答えた。
「文句があったら、キリストに言え・・」


汚れた女の子が、物乞いをしている。
両手を差出し、何かを求めている。
なるべく見ないように、その横を通り過ぎようとしたとき、女の子は俺の足にしがみつく。
「・・・お願い・・・・お願い・・・」
「ごめん、何もやれるものがないんだ・・」
それでも、女の子はしがみつく。
俺達は、目を見合わせ、ため息をつき、最後の1ドル紙幣を差し出した。
瞬間、女の子はそれをつかみ、走り出した。
あちらには、何人かの大人たちがいて、女の子にこう言った。
「よくやった。もっと稼いで来い・・」と。
女の子は、俺達のほうを、少しだけ見ると、中指を立てた。


屋根裏部屋で、相棒はブルースを口ずさんでいる。
「奴隷の歌だな」
俺がそう言うと「黒人の悲しい歌だ」と、答えた。
「俺達はいつまでも、這い上がれないかもしれない」と、俺は言った。
「俺達みたいな黒人には、風当たりは一層厳しいみたいだな・・・」
俺達は、自分の両手を眺め、肌の色を確かめ、ブラッカーであることへの、絶望感を味わう。
俺も、一緒に、ブルースを口ずさむ。



「あといくらある?」と、相棒は俺に問いかける。
「20セントだ」と、俺は答える。
最後の20セントを見つめながら、俺たちは沈黙を守った・・・・・。







最後の20セント



BYナリハラ
スポンサーリンク
Posted by PSPスタッフ at 14:39│Comments(0)
 
<ご注意>
書き込まれた内容は公開され、ブログの持ち主だけが削除できます。