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2010年05月11日

jukebox night 2

jukebox night 2
jukebox night・・・
http://projectstaff.hida-ch.com/d2009-04-17.html



彼女が店に飛び込んできたのは、どしゃ降りの雨の夜だった。
彼女は、濡れたショートヘアをかき上げ、ヒールのつま先でドアを蹴り、ジュークボックスにコインを入れた。
曲は『アニマルズ 朝日のあたる家』。
早い話が、彼女は不機嫌だった。
「馬鹿!・・・」と、独り言をつぶやき、伝線したストッキングをその場で脱ぎ、ダストボックスに思いっきり投げ込んだ。
まぎれもなく、彼女は、不機嫌だった。





カウンターでビールを飲んでいた俺も、ワイングラスを拭いていたマスターも、呆然とその状況を見守った。
見守るよりほかに、手立てがなかった。
かといって、無視できるほどの余裕もない。
俺は、彼女が、自分の近くに座らないことを願った。
が、彼女は席一つを空け、俺の隣に座った。
願いや祈りは、時として、届かないものである。




「マスター、今日の新聞は?」と、彼女は興奮しながら言った。
「新聞なら、これを・・」と、マスターは言い、夕刊を彼女に渡した。
「5月11日・・・1969年・・・」と、彼女はつぶやいた。
「何にします?」と、マスターは問いかける。
「ウオッカの熱いやつをちょうだい・・」と彼女。
「いきなりじゃ、きついよ・・」
「大丈夫だから!」





ジュークボックスは『バスストップ ホリーズ』に変わった。






俺とマスターは、来年から訪れるであろう、1970年代の展望を語り合っていた。
経済はどうなるのだろうか?
車は、手ごろな値段で買えるのだろうか?
女の子のスカートの長さは、どうなっていくのだろうか?
ビートルズはやっぱり解散するのだろうか?
ジャイアンツは、どこまで勝ち続けるのだろうか?
などなど・・・。





しかし、そんな話も、不機嫌な彼女の出現により、みごと中断。
カウンターに、重い空気が横たわる。





「1969年、5月11日・・・」と彼女はつぶやく。
俺もマスターも、無視をする。
「・・・・・」。
「ねえ、なにか聞いてよ」と、不機嫌な彼女に問いかけられる。
このまま席を立って、「じゃ」と言って店を出ることもできたけど、結局俺は彼女とのコミュニケーションの輪の中に、足を踏み入れてしまう。
小心者なのだろうか?
お人よしなのだろうか?



ジュークボックスは『愛なき世界 ピーター&ゴードン』にうつる。
まさに、『愛なき世界』だ。





「今日の日付にこだわっているみたいだけど?」と、俺。
「忘れないためよ」と、彼女。
「どうして?」と、俺。
「聞きたい?」と彼女。
『別に、聞きたかねえよ』と、言いたいところだが、まったく逆の言葉が出る。
それが、人間の心理ってやつだろう。
うまく言えないけど・・・。
「そりゃ聞きたいよ。女の子が一人、ずぶ濡れで入ってきて、しかもご機嫌ななめときている。その理由が聞きたくない男なんて誰もいないよ」と、俺は心にも無いことを言う。
「ねえ、好きなテレビ番組何?」と彼女。
「どうして?テレビ?」
「いいから!」と彼女は声を荒げる。
逆らわないほうが身のためだ・・・。
「キーハンター、進め青春、プロレス中継、ゲバゲバ90分」と、答える。
「好きなタレントは?」
「女?」
「そう」
「由美かおる、いしだあゆみ、ツィッギーも悪くない・・・ミニスカートだし・・」
「いくつなの?」
「もうすぐ21になる、君はいくつ?」
「女に年を聞くもんじゃないわ」
「・・・わかったよ・・・以後きおつけるよ・・・」






ジュークボックスは『春がいっぱい シャドウズ』になる。
俺と多少会話したことと、『春がいっぱい』のおだやかなギターのためか、彼女の不機嫌さは多少緩和されつつある。
不機嫌から、『ご機嫌斜め』になったようだ。
なぜか、俺はホッとする。






「学生運動には参加しないの?」と彼女。
彼女は、何の脈略もなく、思いついたままのテーマをなげかけてくる。
「興味がないんだ」
「なぜ?」
「結局、デモや集会を開いたところで、この国は変わりっこないから」
「変わりっこないから、何もしないの?」
「うん、まあ」
「・・・勇気がないのね・・・」
この言葉に、一瞬、いらだったが、おさえて、おさえて・・・・。






「ところで、一体どうしたの?ずぶ濡れで、荒れてて、何かあったの?」と、俺が聞いた。
「簡単に言うとね・・・」と彼女。
「簡単に言うと?」
「街で車の男に拾われて、山道でキスしようとしてきたの。嫌がったら、外に放り出された。それだけよ」
「キスさせてあげればよかったんじゃない?」
「いやよ!あんなゲス野郎」
「だったら、車乗らなきゃ良かったんじゃない?」
「雨だったから、送ってもらえると思ったのよ」
「送ってもらうお礼として、キスさせてあげればよかったんじゃないの?」
「だから、嫌よ」
「結局さ・・・」
「なによ・・・」
「勇気がないんだよな、あんた・・・」
俺は、さっきの『借り』を返した。




ジュークボックスは、『サマータイムブルース エディコクラン』。



「まあまあ、仲良く飲もうよ、ほらもうすぐ夏だしね」と、マスターが割って入ってきた。
しかし、「勇気がないんだよな、あんた・・」と、言った言葉に、再び彼女は不機嫌になる。
俺のミスだ。
「そう、それは大変だったね、こんなキュートな君を、山道で置き去りにするなんて、許せないな~」とか、言っとけばよかった。
しかし、現状は、口論の渦と化してゆく。
「勇気がないってなによ!キスは勇気?」
「そうだ、勇気も必要だ!キスもペッティングもSEXも勇気だ!」
「馬鹿っじゃない!あなたはきっと、マスターベーションでも、その勇気ってやつが必要なんでしょ」
「その通りだ。少年の多くは、未知の世界に入る時、多くの勇気が必要となる、まっ、見知らぬ男の車を足がわりに考える、ご都合主義の天狗女にはわからないだろうけどな!」
「なんですって!」
「まあまあ・・」と、マスターは割って入る。



彼女と俺は、飲んでいたドリンクを、お互いの顔にかけあう。


そして、どうでもいい、議論は、まだまだ続く。


BGMは、『サマータイムブルース』がリピード。


きっと、1970年代は、女が強くなっていくだろう。



『ウーマンリブ』とか、世論は言うのだろうか?



BYナリハラ














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Posted by PSPスタッフ at 18:04│Comments(0)
 
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