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2008年07月22日

LIFE IN THE FACTORY



無機質な風景、淀んだ空気、アンチビビッド・・・工場とはそんな場所だ。
エコが叫ばれる中、社長も工場長も頭を抱え、CO2の削減に四苦八苦する。
近隣住民に、廃棄物処理方法についての、過剰なまでのアピールをし、近隣住民のレクレーションにはビールケースを差し出し、協力費も惜しまない・・・。
この工場は、エコに協力し、自然を守り、煙突の煙ですら害は無く・・・的なコマーシャル・・・・「ほらね、うちは大丈夫でしょ」的なコマーシャル・・・THE コマーシャル。

こうして今日も機械は回り、金属を削り、ベルトコンベアーの両サイドで、ワーカー達が歯車と化す。
無言の歯車として、8時間我慢する。
でも、気は抜けない。
うっかりしてると、指を機械に『持っていかれる』からだ。
指をやられるとギターは弾けない。
プレイヤーとしての寿命は終わる。
慎重に、黙々と、地味に、個性を殺し・・・8時間の歯車になる。
精錬された歯車に。

明日定年退職を迎える、源(げん)さんは勤続40年だ。
たいした出世もせず、係長という、あってもなくてもいいような肩書きを与えられ、毎日毎日、ベルトコンベアーの片隅で、金属片にボルトをねじ込み、少量の油を差す。
これが彼に与えられた仕事だ。
源さんは愚痴一つこぼさず、毎日毎日、「ボルト」「油」を繰り返し、時間になると一礼して、生産ラインを離れた。

「明日で終わりだね、源さん」と、俺は昼休みに声をかけた。
食堂でうどんを食べ終えた源さんは、おきっぱなしの週刊誌を読んでいた。
「源さん、今まで長かった?」
「そうだな・・・よく、働いたな・・」
「いくつから?」
「25歳だよ」
「へえ、その前は、なにをやってたの?」
「うん?その前か?まあ、いろいろとな・・」
「なんだよ、教えてよ」
「こう見えてもな・・・歌手になりたくて、付き人をやってたんだよ。三田明みたいな歌手にな・・・」
「へえ・・・そうなんだ・・・初耳だね、挫折したの?」
「そうだな、挫折だな・・・歌手の先生から随分殴られたよ・・・虫けらよばわりされてな・・・何かで間違えると・・・例えば買ってくるタバコの種類を間違えたりするとな・・・ひどい時は川に投げ込まれた事もあった・・大阪の・・・道頓堀川だったかな・・・」
「・・・ふ~ん・・・」

俺は、缶コーヒーを自販機で買い、源さんに渡した。
源さんは深々とお辞儀をし、それを飲んだ。
「ねえ、源さん、工場務めっておもしろかった?」
「おもしろくはないさ・・・」
「でも40年だろ?嫌になったこととかないの?」
「お前はおもしろいことを聞くんだな・・・おもしろいとか嫌とかっていう問題じゃないんだ・・・機械も金属部品も、俺を殴ったりはしない・・・馬鹿野郎とも言わない・・・だから、楽なんだよ・・・」
「毎日毎日同じことの繰り返しで飽きない?」
「飽きるなんて事は、ずいぶん昔に忘れてしまったな。こうして、生きているし、指だって残っている、明日、わずかだが退職金も出る・・・むしろ・・・」
「むしろ?」
「工場をやめた後が怖い・・・何をすればいいか、わからんのだよ・・」
「・・・カラオケ教室に通えばいいよ・・・ほら、その、三田明を歌えばいい・・」
「そうだな・・・でも、昔のことは忘れたいしな・・・」

「源さん、俺に何かアドバイスしてくれないかい?」
「アドバイス?か?・・・お前は、何かしたいことがあるか?」
「いや、何がしたいかわからない」
「だったら、このままがいい、人間焦らんことだ。8時間は、機械の音や金属部品に囲まれて過ごした方がいい、一生懸命やることはない・・・ただ、慣れることだ。そして、指をもっていかれんようにな・・・」


翌日の昼休み、事務の女の子が、雑草交じりで新聞紙にくるまれた花束を源さんに渡し、まわりからは、しらけた拍手が「パラパラ」と鳴った。
源さんは、深々とお辞儀をし、頭を上げようとはしなかった。
みんな、あくびをかみ殺し、持ち場に散っていっても、源さんは頭を下げたままだった。
俺が源さんの肩を叩き「源さん、もういいよ」と言うと、源さんは頭を上げた。

「昨日のアドバイスの続きだが・・・・」
「えっ?」
「やりたいことはやっておいたほうがいい・・・」
「ありがとう・・・わかったよ・・・」


俺は、機械を回し、一体何の部品になるのかわからない金属片にドリルで穴を開けた。


俺は源さんに「三田明」のCDを、退職祝いとしてプレゼントした。



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BYナリハラ



  
Posted by PSPスタッフ at 12:01Comments(2)