FIRST LOVE 2
40歳女性 主婦 夫と子供2人 好きな言葉『経験が武器になる』
初恋を語る
「いつの話ですか?」
「16歳の頃かな?」
「何年だろう?」
「1987年かな?」
「今から24年前ってこと?その頃って、どんな時代だったの?」
「そうだな~・・・、今より、いろんな意味で活気があったような気がする。ファッションも、ビビットな原色に溢れていたし、いろんなことを楽しんでいたように思う。例えば、街にはディスコ、カフェバー、海ではサーフィン、スキューバーダイビング、山ではスキー、ハングライダー、そんな感じで、みんなそれぞれの楽しみ方を知ってたような気がする。お金も、あったんだと思う。どんな時代だったの?って聞かれれば、そんな時代」
「へえ~、そんな1987年に16歳だったあなたは、どんな初恋をしたの?」
「そう、若かったわね。16歳だもの。私の初恋の相手は、高校教師。英語の先生。その時彼は25歳だったかな?独身で、2LDKマンションに住んでいて、ウインドサーフィンやっていて、色黒で、ビーチボーイズが好きだったわ。懐かしい」
「あなたの高校の先生?」
「そう」
「教師と生徒?」
「そう」
「どうやって、付き合いだしたの?」
「私が一方的に好きになっちゃって、家出して、彼の部屋に転がり込んだの。夏休みだったかな?」
「先生は困っただろうね?」
「うん、最初はね。『いいか、明日はちゃんと帰るんだぞ』とか言って、彼はソファーで寝て私はベッド。でも、次の日も帰らずに、そして、その次の日には、同じ布団で寝ちゃった。彼も、相当我慢してたんだと思う。だってすごかったもん。終わった後、彼は言ったの『黙っていられる?』って。私は『うん』って答えた」
「黙っていたの、その事?」
「信用できる友達一人にだけ話した。だって、味方が一人はいないと心細いから。その友達にお願いして、一緒にいることにしてもらって、彼と会う。そんな感じだったな・・」
「すごく、危険な感じだね?」
「そう、バレたらどうしよう?みたいな、ハラハラドキドキ感がいつもつきまとっていた。子供ながらに、バレたら、彼に迷惑がかかることもわかっていたしね。でも逆に、そのドキドキ感が面白くもあったの。廊下ですれ違う時、挨拶しながら軽くウインクしたり、授業のとき『先生、宿題忘れました』って言うと、『お前、昨日何やってたんだ?』なんて、彼が言う。おかしいよね、だって、昨日一緒にいたのにさ」
「その後、その禁断の恋はどうなっていくの?」
「1年は続いたかな?知らない街にドライブに行ったりもした。だって近くで出かけられないでしょ?ほとんど、彼の部屋に行って、宅配ピザにバドワイザーって感じで、レンタルビデオ見て、私が好きなレコードかけて・・・」
「ちなみに、何?」
「レベッカ。私レベッカ、大好きだったの。『フレンズ』『ラブイズキャッシュ』『ラズベリードリーム』。ビデオでいうと、『ET』とかかな?」
「わかるわかる・・・その感じ」
「そのまま、眠くなったら、音楽聞きながらHしちゃう。そして、朝、シャワーを浴びて、トーストとコーヒー、髪を整え、彼の部屋を出る。時間差をつけて、学校に登校。学校で会うと元気に『おはようございま~す』。彼も『おはよう、元気か?』」
「別れるきっかけは何?」
「連絡をしないで彼の部屋に行った時、女の人がいたの。彼は彼女のことを『大学のときの同級生』って紹介した。そして私を、『教え子で、英語を習いに来ている』って、彼女に紹介した。気まずい空気の中、彼と彼女を見てたら、すごく大人な感じで、私だけ子供で、彼女も私の存在に、まったく嫉妬心がなくて、『将来はどうするの?あそこの大学は受けといたほうがいいわよ・・』的な事を言ったりして、なんていうんだろ?子ども扱いが、すごく傷ついたって言うか、居場所がなかったって言うか・・・」
「それがきっかけだったんだ?」
「そうだと思う。それから、彼の部屋にも、だんだん行かなくなって、そうそう、『好きだ』と、告白してくれる同級生もいたりして、その子と付き合うようになって・・・」
「先生は『どうしたんだい?』って言わなかった?」
「言わなかった。いつものように、『おはよう、宿題忘れるなよ』って。私がいようといまいと、マイペースって言うか、悲しくないって言うか、大人って言うか、私が子供だったって言うか・・・」
「自然消滅?」
「うん、自然消滅」
「いい、思い出にはなった?」
「うん、今にして思うと、私が勝手に熱を上げていただけだと思う。連絡するのも私のほうばかりだったし・・・。そうそう、彼は、卒業式の日、私にこう言ったの『経験が武器になる。がんばれよ』って。ちょっと、ムカッとしたけど、今は、その言葉の意味が分かるような気がする」
「経験が武器になる・・・か」
「そう、経験が武器になる・・」
「なんだか、ドラマの高校教師みたいだね」
「そのドラマ見たとき、懐かしかったよ。『あ、私たちの事だ』って、思ったもん」
「・・・・・」
「もう、ずいぶん遠い昔のお話だけど、今思い出しても、胸がキュンとするの」
「初恋っていいね」
「うん、大切な、宝物。そして経験。経験が・・・」
「・・・武器になる」
「いい言葉ね・・・」
BYナリハラ