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2008年08月21日

Telephone4



最初の電話から、もう4ヶ月になろうか?
あの日は西陽が差し込む暑い日だったけど、今は木枯らしさえ吹く12月。
街はあわただしくなり、何処かのスピーカーからジョンレノンの声が響く。
1980年12月、40歳で死んだ彼は、多くの人を悲しませ、そして多くの人にメッセージを残し、ピストルの銃声と共にいっちまった。


俺が今死んだら?


誰も悲しまず、何のメッセージも残せず・・・。
渋谷のスクランブル交差点で信号待ちしている大勢の中の一人の死。
スターを取り囲むギャラリーの中の一人の死。
免許証番号A425686987号番の死・・・。


ジョンと俺の違いは明らかだ・・・だからと言ってどうってことはない・・・意味なんて最初からない・・・。


ミーナからの電話はその後も続いた。
俺は彼女からの指示に従い、それをクリアーすることに情熱を燃やし、『合格』を願って、電話を待った。
「合格よ、よくやったわ・・・」と、彼女は言った。
そして報酬も最初は10万だったけど、段々と値上がり、今では30万~40万といったところだ。
指示の内容は、意味不明なものばかり。
マグロ漁船に乗せてもらい、一匹吊り上げる、4日以内。
ボーリングスコア200点以上を出す。1日以内。
場所は問わないが、『松茸』を見つけ、5万円以上換金する、7日以内。・・・などなど。


俺は、アルバイトもせず、ミーナからの電話を待ち、依頼をクリアーし、そのお金で生活するようになっていた。
ボロアパートから、2DKのマンションに、死にかけのワゴンRから中古ではあるがスカイラインに、壊れかけてイマイチ冷えない冷蔵庫も買い替えた。


俺はなんの疑いもなく、ミーナからの指示をこなした。


いや、違うな・・・、望むようになった・・・彼女からの指示を・・・「よくやったわね・・」という言葉を・・・望むようになった・・・生きがい?・・・ダッセー言葉なんで使いたくないが・・・幼稚園児のような素直な気持ちで言うならば・・・『俺は、彼女からの電話が、生きがいだ!・・・』


彼女との会話も、少しは人間的な感じになっていた。


「ねえ、ミーナ、レザージャケットどう思う?」
「レザーはセクシーよ。ただ、着る人の骨格によるわ、肩幅がないとグッとこないわ」
「そう、俺、自信ないな・・・」
「勘違いしないで、あなたがどうこうではなく、私なりの男性用レザージャケット論よ・・」
とか、
「今、キムチ鍋、暖めてるんだけど、一緒にどう?」
「気持ちだけありがたくいただくわ、それに鍋って、髪に匂いが付くから嫌いなの・・」
とか
「ミーナはどんな顔してるの?」
「フフフ・・・、もちろんいい女よ」
「タレントで言うと?」
「該当者なしね」
「沢尻とか?」
「あんなガキと一緒にしないで・・・」
など。


ね、人間的でしょ?


11月に入ったころから、指示の内容は若干「きな臭い」ものになっていく。


大阪難波にあるゲイバーの裏口で、手渡された『包み』を、その夜のうちに新宿のマンションに届ける。
その間、誰とも一切口をきかない。


富山の指定された港で、黒人一人とロシア人2人を車に乗せ、横浜の港までノンストップで送り届ける。
私語はなし。
トイレもなし。
もらしちまったら、そんときはそんとき。


などだ。


普通に考えれば、降りるべきだろうけど、俺は従い、目標達成のために、最善を尽くした。


金のため?


確かにそれもあるだろうけど、それよりも、ミーナからの「よくやったわね」の一言が聞きたかったのかもしれない。
彼女からの電話を待ち、その言葉に、エクスタシーさえ感じた。
俺は、彼女の『言葉の奴隷』と化していた。
俺が最後に持っていた、『残飯みたいなモラル』でさえ、生ゴミと一緒に捨てちまった。


携帯が鳴る・・・非通知・・・ミーナ。
「やあ、ミーナ、今、バーで飲んでるんだけど、出てこない?」
「何を飲んでるの?」
「ジントニック」
「缶の発泡酒じゃなくて?」
「発泡酒はさよならだ」
「あなたも少しはマシになったわね。良いことよ」
「君のおかげかな?」
「素直にもなったわ、ゥフフフ・・・」
「これを成長って言うんだろ?」
「成長、もしくは進化、脱皮、変身、表現方法はいろいろあるわ、ちゃんと日本語を勉強しないとね」
「ああ、そうするよ」


俺は彼女の言い方にむかつくこともなく、むしろ心地よさを感じ、お行儀のよい男になる。
なぜなら、『生きがい』だから・・・。


「仕事の依頼よ、50万が振り込んであるわ、中央高速下りの談合坂サービスエリアで車を待機させて、黒のワンボックスカーから女の子を受け取り、広島駅前まで送る。白のBMWが止まっているから、そっちに移す。一切喋っちゃダメ。トイレも車を止め、携帯用トイレで済ませる。車から降りちゃダメ。時間は明日午後7時きっかり」
「OK」
「それだけ?」
「だって、聞いても教えてくれないだろ?」
「フフフッ、うれしいわ、あなたを信頼してるのよ、こう見えてね」
「ミーナを見たことないよ」
「いい女だから安心して」


電話が切れる。


俺は店のマスターに尋ねる
「俺の職業を当ててみてよ」
マスターは微笑みながら「公務員じゃないし、サラリーマンっぽくもないな、なんだろう?先生だったりしてね」と言う。
「正解、明日、教え子の女の子を実家まで送ってあげるんですよ。最近はそんなことまでしなくちゃならないなんて、教師の世界も大変ですよ」
「高校の先生?」
「そう、よく分かりますね、しかも女子高ですよ」
「へえ」


俺はジントニックをもう一杯飲み、店の外に出る。
外は寒く、レザージャケットの襟を立てる。
ジョンレノンの「ハッピークリスマス」が聞こえる。


クリスマスはもうすぐだ。




NEXT
23日(土)
“Display of Passion”
OPEN 19:30~ START 20:00~
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《BAND》
○Bitch mam
○LAPIS
○SPREAD GERM


BYナリハラ









Posted by PSPスタッフ at 12:30│Comments(2)TrackBack(0)

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この記事へのコメント
快快!下一話等得着急。
Posted by ネコ先生 at 2008年08月21日 13:02
ネコ先生様
昨日はお疲れ様でした。俺も苦しむの嫌なんで、さっさと完結しますね。
Posted by narihara at 2008年08月21日 17:00