2008年06月16日
fiction3

「もうたくさんだ!クソッ!」
彼はそう叫び、アスファルトを蹴り上げた。
この時彼は「変わる」決意をする。
それまでの人生や過去と決別し、「変わろう」と決意する。
彼は30歳だった。
「変わる」には、いい時期だったのかもしれない。
彼の人生を変えた日は、こんな感じだった・・・。
真夏の午後1時、やっとのことでデートに誘い出した彼女を、公園の噴水の前で待つ。
彼女は、足早にやってくる。
ヒールの音を「コツコツ」と響かせ、視線を落とし、肩からかけたハンドバックの位置を気にしながら・・・そして、彼の前に立ち止まるとこう言った。
「いい!もう二度と、電話もメールもやめてちょうだい!今日はそれを言いにきたの!迷惑だわ!いい、もう二度とよ!」
「・・・ちょっと、待ってよ・・・ここじゃ、なんだから、どこかでコーヒーでも・・・」
「コーヒー!?、笑っちゃうわね、なぜ?私があなたとコーヒーを?フフフ、馬鹿じゃないの・・」
「でも、こうして来てくれたんだから・・・」
「あのね!もう電話もメールもノーサンキューだってことを、伝えに来ただけ!あと、もう一つ、あなたが大嫌いって事もね」
「・・・僕の、何処がそんなに・・・」
「・・・フゥ・・・」と彼女はため息をつき、さらに続けた。
「まず顔、体つき、匂い、声、歩き方、雰囲気、工事現場で働いているところ、服のセンス、貧乏なところ・・・まだ続ける?」
「・・・・・・・」
「とにかくもう近寄らないで!」
そういい残し、彼女は立ち去ろうとする。
「・・あっ、待って・・」と彼は、彼女の手を握る。
「触らないで!気持ち悪い!」と彼女は、彼の体を押した。
体勢を崩した彼は、噴水に落ちる。
水浸しの彼を見つめて彼女は言う。
「フフフ、・・・あなたにはそれがお似合いだわ!」
彼は水浸しのまま、ゲームセンターに立ち寄り、トイレの中で高校生5人に絡まれ、財布の札を抜き取られた。
おまけに3発殴られ、腹も蹴られた。
パンチの1発が鼻に当たり、水浸しのシャツは鼻血で赤く染まった。
「水浸し」、「血染め」、で、家路の途中、警察官に職務質問を受け、そのまま連行される。
理由としては、彼の財布から「デリバリーヘルス」の会員証がでてきたこと、しかもそのデリヘルは、高校生雇用で摘発を受けていたせいもあって、彼は2時間取調べを受け、指紋と写真を撮られ、まるで生ゴミを捨てるように、開放された・・・いや、捨てられた・・・。
「もうたくさんだ!クソッ!」
彼はそう叫び、アスファルトを蹴り上げた。
この日を境に、彼は変わる。
変わろうと努力する。
翌日、早速行動を起こす。
まずは、定期預金生命保険を解約し、勤務先の建設会社に辞表を出し、本屋で広い意味の「経済誌」10冊ほど購入し、頭をスキンヘッドにした。さらに、携帯を解約し、アパートを移り、デリバリーヘルスの会員証は・・・・100円ライターで燃やした。
彼は、毎朝、6時に起き、ランニングをし、腹筋、腕立て、背筋、スクワット、シャドーボクシングを繰り返し、ブランチとして青汁と生野菜をかじった。
アルコールとタバコもやめ、ジャンクフードを口にせず、腹が減ると、生野菜をかじり牛乳を飲んだ。
そして、経済、株、経営哲学、人間の深層心理・・・などの本を読みあさり、気が付いたことはノートに書き写した。
その光景は、ストイックと言う言葉を超え、一種の修行層のようだった。
1年後、彼は以前の彼とはわからないくらいに、外見的に変わった。
80キロ近くあった体重も、60キロを切り、スキンヘッドだった髪も短髪になりヘヤーワックスでまとめ、頬はこけ眼光鋭く、腕から肩にかけての筋肉が発達し、腹筋が割れ、一見ライト級のボクサーを彷彿させた。
彼は、経営、株、経済のセミナーにも参加し、わずかな投資額ではあるが、株を買い、それを当てた。
株によって得たお金は、徐々にではあるが増えていった。
2年後、彼は株を当てたお金を元に、小さいながらも消費者向け金融ローンの会社を設立。
お客様との相談の後、ローン利率を決めるという、一種のオーダーメイド方式的利息が受け、会社は徐々にではあるが、発展していった。
そして3年後、彼の会社は、各町に支店を出すようになり、業績も右肩上がり、とうとう高額納税者ベスト10に顔をだすようになった。
彼は「やりての青年実業家」「3年で成功を収めた男」などど評され、地方誌の表紙を何回か飾った。
彼は成功者であり、その成功を誰もが羨んだ。
彼は、恋人をつくらなかった。
言い寄る、もしくは近づく、女性はたくさんいたが、彼は心を開こうとはしなかった。
ある経済誌の取材に彼は答えた。
記者は、昔と今の彼の写真を並べこう言った。
「まったく、別人のように見えますが?」
「いえ、まぎれもなく、同じ人間です」
「世論はあなたを、最も早い成功者だと、たたえていますが?」
「・・・否定はしません」
「3年で、建設労働者から今の地位に上り詰めたエネルギーは何ですか?」
「目には目をです」
「はあ?・・・目には目?・・・まあ・・・いいでしょう・・・、では、あなたは今の自分に満足していますか?」
「私は、自分自身がどうしたら満足できる人間何かを、よく知っています。私の満足の基準はあなたがたとは違います。しかし、私自身満足する環境もしくは状態をわかっているつもりです。そして、質問に答えるならば、まだ満足していません」
「では、あなたの満足の基準は?」
「その質問の意図は?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
噴水で彼を突き飛ばした彼女が、彼の会社を訪れたのは、真夏の暑い日だった。
彼女は会社の窓口担当者と話し、窓口担当者の上司と話し、2時間後、すったもんだの末、社長室に通された。
彼と彼女が会うのは、もちろんあれ以来である。
彼女は、ドアを開けるなりこう言った。
「元気!?立派になったわね!いろんな雑誌に出てるでしょ?あなた、どう?お仕事?大変?」
「そんなこともない」
「そう、昔のあなたを知ってるから余計にびっくりしちゃって・・・、昔が嘘みたいね」
「嘘じゃない、現実だ」
「私の事覚えてる?もう、忘れちゃった?」
「覚えてる」
そんなやり取りの末、彼は切り出す。
「で、用件は?」
「実は、1000万ほどお金が必要なの。お願い、無利子無期限で貸してほしいの」
話によると彼女は、積もり積もったカードショッピングのつけや、衝動買いのつけを払うため、サラ金に手を出す。
もちろん返せる見込みも無く、別のサラ金でも借り、そんな繰り返しで膨れ上がった金額が1000万、よくある話だ。
「よくある話だ」と、彼も言った。
「1つ条件がある」
「何?」
「今晩、君の部屋に行く、それが条件だ」
彼女は一瞬微笑、「もちろん・・・・歓迎するわ・・・」と言った。
夜、彼女の部屋に向かう、運転手が運転する車のバックシートで、CDに合わせてビートルズの「へルタースケルター」を大声で歌った。
「社長、大丈夫ですか?」との運転手の問いかけに「大丈夫、最高に気分がいい夜だ」と答えた。
彼女の部屋のインターホンを鳴らす。
ドアが開く。
玄関先で、彼女が「会いたかったわ」と言い、彼の胸に顔をうずめる。
部屋の中に通される。
彼女はジャケットとスカートを脱ぐ。
そして言う。
「あなたも早く脱いで・・」と。
彼は、彼女をじっと見、「水を一杯もらえないか?」と言う。
「水なら冷蔵庫に、ミネラルウオーターがあるわ」と彼女は答える。
彼は、冷蔵庫を無視し、水道水をグラスに注ぎ、一口飲み、彼女が横たわるベットへ。
「早く脱いで」
「夏は暑い」
「えっ?夏?・・・それよりも、早く・・・」
「涼しいほうがいいだろ」
「・・・そりゃ・・・そうだけど・・・」
と彼女が言った瞬間、グラスの水を彼女の顔にぶちまけた。
「なにするのよ!」と怒り出す彼女に、バックに入れて持ってきた、100万円の札束10束を投げつける。
「プレゼントだ」
彼女は、怒るのを忘れつぶやく「・・・お金・・・お金・・・お金・・・」
びしょぬれの彼女が札束にまぎれる様を見ながら、彼は言う。
「君にはそれがお似合いだ・・・」と。
帰り道、彼は例の噴水に立ち寄る。
「終わった」
彼は、完全なアカペラでストーンズの「サディスファクション」を歌った・・・。
それは、彼の中でしかありえない、勝利の歌だった。
真夏の夜空に、若干オンチな「サディスファクション」が、いつまでも響いていた・・・・・。
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Posted by PSPスタッフ at 09:52│Comments(5)│TrackBack(0)
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この記事へのコメント
BAD ENDでなくて良かった!
妙な爽快感があります。
即興で書くのですか?
妙な爽快感があります。
即興で書くのですか?
Posted by C at 2008年06月16日 17:01
c様
こんにちは。ほぼ即興ですよ。テーマはきめます。「タカビーな女に水をかけるストーリーは?」みたいな感じでですよ。
こんにちは。ほぼ即興ですよ。テーマはきめます。「タカビーな女に水をかけるストーリーは?」みたいな感じでですよ。
Posted by narihara at 2008年06月16日 18:12
すげぇ引きこまれる!
今回もよかったぁ
…(*´д`)アハァ…
水を顔にかけた時、
きたっ!!って感じで、思わずニヤリ。
楽しい昼休みになりました。
しかし暑い(;´Д`)ハァハァ
今回もよかったぁ
…(*´д`)アハァ…
水を顔にかけた時、
きたっ!!って感じで、思わずニヤリ。
楽しい昼休みになりました。
しかし暑い(;´Д`)ハァハァ
Posted by カズ at 2008年06月18日 12:50
カズ様
お世話になってます!ありがとね・・。
バンドどう?今、仕事大変なんじゃない?
お世話になってます!ありがとね・・。
バンドどう?今、仕事大変なんじゃない?
Posted by narihara at 2008年06月19日 10:05
今はバンド休業、
仕事集中期間です(>_<)
仕事集中期間です(>_<)
Posted by カズ at 2008年06月20日 01:10



