2008年06月12日
fiction2

ベルリンの壁が崩壊した夜、俺はヒロシに出会った。
歴史的な夜ではあるにせよ、俺も彼も、ほとんど関係ない人生を生きていた。
東と西の結合は世界的にはハッピーだが、俺たちにしてみたらニュースの一つに過ぎない・・・。
俺がなじみの店に入ると、ボックスもカウンターも満席状態。
お店のstaffが申し訳なさそうに、「すいません、合い席でもいいですか?」と聞くものだから「いいですよ」と答え、案内されたのがカウンターの奥の隅。
隣には、太った男が一人。
それがヒロシだった。
正直「かかわりたくねえな~」と、思ったけど、グラタンを食べながら「英字新聞」を読んでいる彼が気になった。
汗臭さが漂うグレーのTシャツ、黒渕のめがね、テンパーの髪、首筋を流れる汗・・・。
俺は、ヒロシとは別の方向に体を向け、TVモニターに写る「ベルリンの壁崩壊シーン」を、バドワイザー片手に見入る。
さらに、俺はなるべく彼から距離をとった。
壁、ギリギリまで寄り、壁にへばりつくように、TVモニターを見上げる。
そんなこっけいな俺の姿を見てか、ヒロシは言葉を発した。
「やっぱり、嫌ですよね・・・。僕の隣なんて・・・。ごめんなさいね、もうすぐ出ますから・・・」
不意を付かれた俺は少々戸惑いながら答えた。
「・・・いや、そんなこと・・・ないよ・・・気使わなくても・・・いいよ・・・全然・・・」
「いいんですよ、馴れてますから・・・、僕なんて・・・」
そう言って、ヒロシはうつむいた。
俺は、その空気が嫌だったのか、おせっかいなのか・・・はたまた、むかついたのか、カーときたのかは疑問だけれど、ヒロシに話しかけてしまう、しかも偉そうに・・・だ。
「あんたさ、よくわかんねーけどさ、いじけるのやめなよ。だいたいなんで俺があんたの隣が嫌だって決め付けるんだよ」
「でも、距離が離れてるし・・・」
「いや・・・これは礼儀だよ。だろ?いきなり、隣に座ってさ、引っ付いてきたんじゃ、気持ち悪りーだろ?」
「でも、壁にべったり張り付いてるし・・・」
「・・・ん~、これはさ・・・この方が楽なんだよ。人にはそれぞれ好きな体制ってのがあってさ・・・俺は壁に向き合ってる方が好きなんだよ・・・・」
まあ、そんな出会いで彼と知り合った。
ファーストイメージで「かかわりたくない」と、思う奴とかかわっていく・・・。
出会いとは、そもそも、そおゆうものかもしれない。
「ところでさ、なんで英字新聞読んでるの?わかるの英語?」
「勉強中なんです」
「勉強中?」
「はい・・・その・・・好きな女の子が・・・英語ペラペラになったら付き合ってもいいって、言うから・・・」
「・・・なるほど・・・、ご熱心なことで・・・」
話によると、ヒロシは、その女の子の事を思って3年になるらしく、彼女は「高級なお水」であり、お金を貯めてその店に行き、彼女を指名し、1セット1時間だけお喋りをし・・・といってもヒロシはあまりお喋りがうまくなく、一方的に彼女が自分の好みをヒロシに伝え、時間になると黒服の指示通り、店を出るらしく・・・。
俺は聞いた
「彼女からの御要望だったら、なんでも聞くの?」
「そうです。他にも、今までに・・・いろいろと・・・・」
「いろいろ?、例えば?」
「はい、最初は、お金でした。1万円を胸元にはさむと喜ぶんですよ彼女。こんな僕がしたことに喜ぶんですよ」
俺は頭を抱えた。
「で、次のご要望は?」
「時計、アクセサリー、靴のプレゼントです」
「まあ、お決まりのパターンだな・・・」
「彼女、すごくうれしそうに笑うんですよ」
「・・・うれしかったんだろうな・・・たぶん・・・」
「それから、彼女の車洗ってワックスかけたり、引越しのお手伝いしたり、あっ、あと重いものがあったら、ポケベルが鳴るんですよ、彼女から、僕すぐ行って、運んであげるんですよ、あと・・・・」
「いや、もういいよ。で、ヒロシさあ、彼女の部屋には行ったことは?」
「あるわけないじゃないですか、いつも、荷物は部屋の前において帰りますから」
「じゃあ、KISSは?」
「そんなこと!・・・まずは、英語がペラペラになったらって、彼女が・・・その・・・・」
俺は、ヒロシがお熱の「お水の彼女」の話をしこたま聞き、バドワイザー3本とバーボン水割りを飲み、自分の勘定を済ませ「じゃ、またな」と言って席を立った。
そうそう、「きっと、うまくいくさ」とも言った。
ヒロシは、顔をくしゃくしゃにして微笑んだ。
店を出てから、俺がため息をついたのは言うまでもない。
その後、ヒロシとはこの店で何回か会った。
彼は、時には料理本を、時には「CANCAN」を、そしてトムクルーズの特集記事まで、読んでいる夜もあった。
どれもこれも、彼女のリクエストだ。
ある夜、我慢しきれずにヒロシに言った。
俺にだって、我慢できない夜があるさ。
「なあ、言っちゃ悪いけどさあ、あんた良いように利用されてるだけだぜ、わかるだろ?」
「・・・えっ、利用?どうゆうこと?ですか」
「う~ん、つまりさ、相手はお水のお姉ちゃんだろ?あんたが店に通い指名してくれる。彼女には指名料も入る。しかも、何回も通ってくれる。体を触ったりしないし、奴隷のように言うことを忠実に聞いてもくれる。いいかい、ヒロシ、あんたは彼女にとって良いお客、もしくは鴨だ。愛なんてこれっぽちもねえよ。いいかげんに気づけよ、ヒロシ、お前は・・・」
その瞬間、ヒロシの右ストレートが俺の左頬をとらえた。
俺は、椅子から転げ落ち、唖然とした。
ヒロシは肩で息をしながら言った。
「・・・いいですか・・・二度と・・・彼女の悪口を・・・・言ったら・・・殺すよ・・・」
ヒロシは、重い体重を引きずり、店を出た。
俺は「おい、ちょっと・・・こら!待てよ、ヒロシ・・」といって後を追った。
何回か声をかけたけど、ヒロシは俺の問いかけを無視した。
ヒロシは、彼女の店に向かっている。
俺は、5メートル後ろを歩く。
やがて彼女の店の前。
ヒロシは立ち止まり、10秒間呆然とする。
そして、入り口とは逆を向き歩き出し、道路沿いのベンチに腰掛ける。
やがて、・・・やがて、ヒロシの1人芝居が始まる。
「ああ、こんにちは、元気でしたか?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「今、知り合いに、ひどいこと言われましたよ」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「あなたが、僕のことを、利用しているなんて、まったくひどい話ですよね」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「でも、僕、殴ってやりましたからね」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「いや、そんな、強いだなんて」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
ヒロシは、右隣の、誰もいない空間に話しかけていた。
店から黒服が2人出てきた。
彼らは、ヒロシを見かけ話し出した。
「おい、また、来てるよ」
「いつもだな、どうする?警察呼ぶか?」
「まあ、いいだろ、別に被害ねーしな」
「それもそうだな」
俺は、どうしようか迷ったが、思い切って、ヒロシの左隣に腰掛ける。
「よっ、ヒロシ、さっきは悪かったな、こんな素敵な彼女のこと悪く言ってさ」
ヒロシは驚いたように答えた。
「来たんですか?悪かったなんて・・・いいですよ、一緒に飲みましょうよ。あっ、これ彼女です」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「あっ、はじめまして、ヒロシの知り合いです」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
俺も、空間に向かって話しかける。
「ヒロシから聞いてますよ。英語がペラペラになったら、彼と付き合ってくれるんでしょ?約束は破っちゃいけませんよ。だから彼、いつも英字新聞読んで勉強してますよ」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「そんなこと・・・照れるな~、彼女の前で言わないでくださいよ」
「お似合いだぜ、あんたらさ、今年度のベストカップル賞総なめ!」
「よしてくださいよ、照れるな・・・ハハハ」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
店でヒロシを見かけると、「よっ、彼女とはうまくいってる?」と、声をかけた。
彼は決まって「僕なんて、ダメですよ」と言った。
ヒロシは、ドイツワールドカップの年に死んだ。
彼との最後の会話はこうだった。
「よお、ヒロシ、ワールドカップ、見にいきてーな」
「そういえば、あなたに始めてあったのは、ベルリンの壁崩壊の時でしたよね」
「えっ、覚えてるの?」
「はい、覚えてますよ。あなたは僕を嫌っていた。でも、知り合えた。彼女とも会ってくれた。彼女喜んでましたよ、あなたに会えたこと・・・」
「・・・いや・・・その・・・」
彼は自殺だった。
遺書と一緒に、英字新聞、料理本、トムクルーズの記事、CANCANを握り締め、あの店の前のベンチで多量の薬を飲み・・・・、死体は何日間も放置された。
「寝ているだけだろ」と、行きかう人は思ったに違いない。
俺は、たまにそのベンチに座り、右隣の空間に話しかける。
「どう?元気だった?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

NEXTLIVE
“JUNK PERFORMANCE vol.6”
OPEN 19:30~ START 20:00~
adv 1000yen door 1400yen
《BAND》
○SUPER NOVA
○SPREAD GERM
○The Zambo
BYナリハラ
Posted by PSPスタッフ at 09:28│Comments(8)│TrackBack(0)
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この記事へのコメント
ナリハラさん、これはもう短編小説ですよ。すごいですわ。
赤い灯台も面白いですよ。次も期待してます。
赤い灯台も面白いですよ。次も期待してます。
Posted by チトシ at 2008年06月12日 15:17
ほんと 成原さん 村上春樹に
思えてきました すごい!
引き込まれましたよ
思えてきました すごい!
引き込まれましたよ
Posted by とおる at 2008年06月12日 15:47
お、いーじゃん。(^^)
Posted by ネコ先生 at 2008年06月12日 17:49
ちとし様
いえいえ、そんな・・・社長!
とおる様
お上手を・・・店主!
ネコ先生様
いっぱいいっぱいですよ・・・先生!
いえいえ、そんな・・・社長!
とおる様
お上手を・・・店主!
ネコ先生様
いっぱいいっぱいですよ・・・先生!
Posted by narihara at 2008年06月12日 18:23
ウゥゥゥゥ…………………………((((;゚Д゚))))………
な、鳴腹さん……………
(;-人-)……ナマンダー ナマンダー ナマンダー……………
な、鳴腹さん……………
(;-人-)……ナマンダー ナマンダー ナマンダー……………
Posted by ひっさ。 at 2008年06月12日 20:18
ひっさ様
ガガッガッガガガ・・・・・・。ギギギ・・ギギ・・・・ウウウウウウゥウ・・・・ナマンダーナマンダー・・・・、やっぱり君は仏教徒?
ガガッガッガガガ・・・・・・。ギギギ・・ギギ・・・・ウウウウウウゥウ・・・・ナマンダーナマンダー・・・・、やっぱり君は仏教徒?
Posted by narihara at 2008年06月13日 00:24
こんにちは。
ほんと面白いです!
こんな類の妄想が出来るなんて素敵ですね~
ほんと面白いです!
こんな類の妄想が出来るなんて素敵ですね~
Posted by C at 2008年06月14日 12:36
C様
ありがとうございます。妄想、想像、などが趣味です。お金かかんないでしょ。
ありがとうございます。妄想、想像、などが趣味です。お金かかんないでしょ。
Posted by narihara at 2008年06月16日 09:55



