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2008年08月20日

Telephone3



俺の中に「目的」が芽生える。
「目的」・・・確かに、ここ何年か感じたことが無い響きだ。
この「目的」は、ミーナが与えてくれた、すばらしき意味不明な不条理さを兼ね備えてはいるものの、俺は「目的」を達成しようと、行動し知恵を絞り報酬を前払いでもらう。
ミーナが与えてくれる「目的」に意味はあるのだろうか?
「ない」これが結論だ。
でも、考えて欲しい。
何を?
生きる意味なんてはなっから無い事を・・・。
物事に意味なんて無い、意味を持たせようとする連中を見かけたらこう言ってやる。
『てめえのうす汚たねえアナルと同じように、意味なんてねえんだ』と。



『信濃川をきれいにする会』の清掃活動にはすぐに参加できた。
本部テントに行き、「僕も参加したいのですが」と言うと、「それはそれはありがとうございます。こちらにご署名を・・」と、60歳くらいの男が答えた。
「あの・・」俺は切り出した。「この会の幹部の方はどちらに?」
男は答える「幹部という偉そうなものではないんですが、まとめ役と言いますか、窓口と言いますか、その方々は一緒に清掃活動をされていますよ。ロゴ入りの腕章をはめておられる人が10人ほどみえて、この会のまとめ役です」
俺はお礼を言い、ゴミ袋、軍手、ゴミ取りばさみを受け取り、ロゴ入り腕章をはめた人を探した。
そして、その人の前でゴミを拾った。
黙々と拾った。
目立つように拾った。
時には、「あー、随分ひろったな~」と、声をあげてみた。
腕章の男は、俺を見て微笑み、軽く頭を下げた。
俺は話しかける「ずいぶん汚れていますね。これじゃ川がかわいそうですよ。僕の生まれた町にも川があって、その川は・・・」
俺の話の途中で、腕章の男は、向こうの誰かに呼ばれ、「じゃあ、がんばってください」という言葉を残し、俺の前をスルーした。


俺は別の腕章の男を見つけ、こんな感じで、なんとか自分をアピールし、そう、『認められる』ために行動した。
しかし、『認められる』という認識は、ひいきめに見ても感じられず、時間は過ぎ、午後5時、終了のアナウンスが流れ、全員が本部テントの前に集まった。


俺は、焦っていた。
「どうすれば、どうすれば、認めてもらえる?」
本部テントの前には、400名ほどの参加者が、対面には腕章をつけた幹部?が・・・。
幹部の一人がマイクを持ち話し出す「え~、本日はお忙しい中、信濃川を美しくする会にご参加いただき、誠にありがとうございます。この会は・・・・・・・・・」


俺はギャンブルに出る。


「すいませーん!ちょっといいですか!」
俺の大声に、400名が氷りつく。

こうなりゃ、やけだ。
ミーナが言うとおり、俺には、失うものは何も無い・・・。

「僕はこの会に参加できて今とても感動しています。こんなすばらしい・・・こんなすばらしい・・ウゥ・・」俺は泣き真似を入れる、そしてジーンズの後ろポケットから振り込まれた札を出し「お願いします!こんなすばらしい団体の皆さんに、寄付をさせてください!」
俺は最前列まで行き、腕章の男にお金を渡すと、泣き崩れる真似をした。
腕章の男は、どうしていいかわからず、戸惑いながら「・・・ありがとう、ありがとう、みなさん!この方に拍手をお願いします!」と言う。
まわりからは拍手が起こり、俺は泣き真似を続け、「みなさんは、なんてすばらしいんだ!」と絶叫する・・・・。



俺は渡された用紙に、住所氏名を署名し、散々お礼を言われ、「あなたの善意を地方紙に載せますよ」と言われた。
俺は「いや、善意だなんて・・・、ただ、僕は、あなたがたに、認めてもらいたかっただけですよ」と、本音を言った。
まさしく本音だ。
腕章の男は「もちろん、あなたの善意は十分認めていますよ」と答えた。


『十分認めていますよ』と・・・。



夕暮れの日本海を眺める。
壊れかけたワゴンRのボンネットに腰掛ける。
最後のマイルドセブンに火をつけ、空箱をつぶす。
無性にビールが飲みたかったが、飲酒運転になるからやめた。
俺の残飯のようなモラルが、違法行為にブレーキをかける。


そして携帯が鳴る・・・非通知・・・ミーナ・・・。


「お疲れのようね」
「ああ、日本武道館ライブを終えたような気分だよ」
「ペットショップボーイズみたいね」
「いや、ジミヘンと言ってほしいね」
「死んじゃってるでしょ?」
「魂は生き続ける」
「どこで?」
「下水道処理施設の中で・・・・」


ミーナは、以前の電話のように、まくし立てるようには話してこなかった。
少しではあるが、我々の関係は、やわらかいものになったのだろうか?



「ねえミーナ、あんたから電話があったって事は、合格って事?」
「そう、合格、しかも、相当優秀な成績でね」
「そりゃよかった、いつも平均点に満たない成績で、不合格を繰り返していた俺にとっては、なによりの言葉だね」
「点数は評価の方法の一つに過ぎないわ、世界にはいろいろな『ものさし』があるの、わかる?」
「わかるような気がする」
しかし実際はわからなかった・・・。



カーラジオから、ニールヤングの「ハーヴェストムーン」が流れる。
俺は空腹に気づく。
風呂にも入りたい。
髭も剃りたい。
そして冷えたビールを飲み、泥のように眠りたい。


俺は、まだ死にたくないようだ。



「ねえ、ミーナ、もし俺が合格なら、次の依頼をくれないか?実は、振り込まれたお金、寄付しちゃったんだ」
「善意ね」
「どうだか?」
「あなたの口座に30万振り込んであるわ。一回しか言わないからよく聞いて。期限は1週間、次の依頼は・・・・・・・・・・・・・・・・・・」



こうして俺は、ミーナからの電話を待ち、口座に振り込まれた金を下ろし、指示をこなし、
そして再び電話を待つようになった。
電話が鳴れば合格、鳴らなきゃ不合格、そしてさよなら。
基準は不透明。
思いっきり不自然。


「失うものが何もない」俺は、ミーナからの電話を待つ。


待つ・・・。



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BYナリハラ










  
Posted by PSPスタッフ at 12:16Comments(3)TrackBack(0)